武装メイドさん
文句はないが、この子の服を探して周りを見ると、ベッドの横に全部脱ぎ散らかしてあった。
可愛い縞模様のパンツまで落ちてて、俺が照れる始末である。
「なあユメ、服を脱ぐのはいいけど……いや、よく考えたらそれも問題あるか。とにかく、脱いだ服はちゃんと畳んでおかないと駄目だぞ。だらしない人だと思われるからな」
とか言いつつ、俺もそこら辺に脱いで寝ることはあるのだが、今日はちゃんと畳んでソファーに置いてあった。
そりゃまあ、よその家だしな、ここ。
「昨日のお風呂場はしかたなかったけど、ユメはいつもはパパにしか裸見せないのよ。それでもだめ?」
「い、いや……裸を見せる見せないのは問題ではなく……まあいいや」
小首を傾げて訊くこの子のあまりの可愛さに腰砕けになり、俺は結局、途中で頭を撫でてやった。
「まあ、注意できたらするということで……」
「うん……注意するの……えへへ」
撫でられると嬉しいのか、やたらとニコニコする。
それがまた可愛くて余計に撫でてしまうという……。
「どういうわけか、会う前はもう少し大きい子のイメージあったけど、今はあんまり違和感ないなあ」
上半身を起こして何気なく呟いたら、なぜかユメはぱっと顔を上げた。
「パパもそう思う!? ユメもね、街で歩いている時、どうしてだか、自分が少し小さくなっている気がするのよ……前はもう少し大きかった気がする」
「そうなのか?」
筆で描いたみたいな綺麗な眉をきゅっと寄せるユメを見て、俺も多少の疑問は湧いたが。
しかしまあ、そこまで気にするものでもなかろう。
「あまり気にすることないぞ。気付いたら年取ってるより、だいぶマシだ。身体の方は、また成長するさ」
「パパは気にしない?」
「ああ」
「……じゃあ、ユメも気にしない」
笑顔が戻ってほっとした。
すると、まるでタイミングを計ったようにノックの音がした。
「あ、はいっ」
「朝食をお持ち致しました」
やたらと可愛い声がした。
「えっ。いや、てっきりまたあの広間で食べるのかと」
「普段はそうなのですが、アデリーヌ様が、『ユメちゃんと一緒にいるようだから、今朝は同じ部屋でお食べになりたいかもしれないわ』と仰いましたので」
「いやぁ、気を遣わせて申し訳ない」
ということは、ユメがこっちに来てることはバレてるわけな。
状況柄、俺は思わずバツが悪くなったが、でもまあ今のユメは、どう見ても十歳未満だしな。あんまり問題ないような……やっぱりあるような。
「あの……入ってもよろしいでしょうか」
外からまた言われ、俺は慌てて返事した。
「あ、申し訳ない。まだベッドですが、それでもよければ」
慌てて毛布ごと布団を引っ張り上げると、ユメもさっと布団の中に隠れたりして。
俺以外の人には、まだ人見知りするらしい。
「では、失礼致します」
ドアを開け、ワゴンを押してメイドさんが入ってくる。
この屋敷は、なぜか綺麗なメイドさんが呆れるほど大勢いるんだが、この人もまた、とんでもなく可愛いというか、メイドさんレベル高い。
髪も瞳も薄水色で、凜々しいというよりは、可愛い系の人だ。
前髪を伸ばしているので、片方の目がほとんど隠れていた。
少女漫画みたいに瞳の大きな人でもある。
顔はまだそこまで大人にも見えないので、多分、サクラとどっこいどっこいの年齢だと思うのだが。この人が秋葉原のメイド喫茶とかで勤めたりすると、周囲の他の競合店が潰れそうだな。なぜかメイドさんのくせに帯剣してるのが不思議だが。
俺がぽかんと見とれている間に、女の子はワゴンを置くだけではなく、てきぱきと食事の支度を始めようとした。 ベッドに寝たままでも食べられるベッドテーブルが部屋の隅にあったんだが、それを押してきて、配膳まで全てやってくれようとした。
そこでようやく気付き、俺は慌てて止めた。
いや、スカート短いのが相変わらず気になり、パンストの足ばかり見てたんで。
「いえいえ、そっちは俺がやりますので。お気遣いなく」
「……もしご遠慮でしたら」
「いやぁ、本当に大丈夫です。ちょうどベッド出たかったので」
「そうですか」
上目遣いのずきっとくる視線で俺を見やり、それからなにやらもじもじした後、ふいにスカートのポケットから小さなカードを出して渡してくれた。
なんだこれ? メイド喫茶でくれる、キャラカードみたいなのか。まさかな。
「私はエレインと申します。今後とも、どうかよろしくお願い申し上げます」
腰が九十度になるほど、ベッドの俺に深々とお辞儀などした。
「あ、いや……こちらこそ」
もらったカードを見ようとしてた俺は、慌てて自分も低頭した。
「ごゆっくりどうぞ、レージさま」
最後の挨拶の後、なぜかエレインとやらは真剣な声でこう述べた。
「我が、大いなる君のために」
右の拳を左肩の下に当てたりして。
大いなる君って、あのスタイルいいアデリーヌのことか? いや、この人もたいがいスタイルいいけど。




