添い寝
「ではっ、この屋敷の者は――」
「そう、この屋敷に仕える者は、わずかな数の男を除けば、全てが大いなる君をお守りして戦う、聖母達。ダークピラー不在の今は、我が大君の剣であり、盾でもあります。統制が緩み始めた帝国など、及びもつかない鋼の団結で結ばれていますわ。そんな場所へ、のこのこ忍び込んできた愚か者が、おまえというわけですね」
「や、闇の軍勢のしもべごときが、何を言うかっ」
狂ったように叫ぶ少尉に、わたくしは眉をひそめてしまいました。
礼節の欠片もないのですね。
「いいか、覚えておけっ。我らが神の使徒達がきっと、貴様達の神を駆逐して討ち滅ぼしてくれるから――ぐっ」
不意に苦痛で顔を歪めた少尉に、わたくしは我ながら冷ややかな声で申し渡していました。
「我が大いなる君を貶めるようなことを口にしなければ、あるいは記憶を奪うだけで生かしてあげたかもしれないものを。……おまえは、自らの運命を選択しましたね」
深々と息を吐いてしまいました。
このような者に余計な力は使いたくないのですけれど。
「しかし……いかに小物であろうと、我が大いなる君への敵対の言葉は、無視できません。敵は、倒すのみです」
「ま、待ってくれっ。どうなってる、えっ、これはどうなってる」
見る見る自分の下半身が石化していく様を見て、少尉は震え上がったようです。
まあ、普通に生涯を送るなら、まず経験しないことですからね。
「痛い痛いっ。た、助けてっ。悪かった、謝る! お、俺も、俺もあんた達の神を信仰するっ。信徒になるっ」
「……所詮、おまえ達の信仰心など、その程度のもの」
わたくしは、既に彼に背を向けて歩き始めました。
「我が大いなる君を愚弄した罪は重いわ。おまえが小馬鹿にした、闇の力の恐ろしさを思い知るがよい」
「あ、足が石にっ、俺の足があっ」
「エレインっ」
「ここに」
背後の悲鳴を無視して忠実な部下を呼ぶと、わたくしは最後の命令を下しておきます。
「全身が石化したら、粉々にして庭にでもまいておきなさい」
「はっ。後はお任せを!」
石段を上がりつつ、わたくしはいつの間にか独白していました。
「闇は光を退け、駆逐する……雌伏の時は終わろうとしています。今度こそ、我らは大いなる君の意志を世界に示すことでしょう。神は常にわたくしと共にあり。今までも……そしてこれからも」
カオル君のスパルタ教育にとことんバテた俺は、深夜になってようやく解放され、そのままベッドに倒れ込んで爆睡してしまった。
まあ、有益だったのは認めるが……右も左もわからん初心者に、あそこまで一気に詰め込もうとしなくてもな。
それでも、朝になって目覚めた時は、かなり回復していた。
まあ俺は、寝る時はとことん寝るからな。夢も見ずに爆睡した!
……と、よい気分で起き上がろうとしたところが、なんだかふいに抵抗を感じ、俺は慌てて布団をめくってみた。
「うおっ」
めくった時の三倍の速度でまた戻したりして。
な、なんだ……今の美しい生き物……は。
頭が混乱したが、よく考えたら――いや、考えずともわかるはずだったのだ。
でも、あまりにもホームで見た時と違ったからな。
背中を覆う銀髪なんか、窓からの陽光を浴びまくって天使の輪みたいに輝いていたし、肌なんて染み一つない。
しかも、まだ九歳やそこらの年齢なのに、目鼻立ちが絵に描いたように完璧に整い、凜々しく引き締まっている。少し涎が口の端から垂れていたのに、全然汚らしく見えなかったな。
しかし、まさか全裸とは思わなかった!
胸がちょっと膨らみ始めていたのまで、ばっちり見てしまったぞ。さすがにそんな年齢の子に欲情なんかしないが、しかしめちゃくちゃ焦ってしまった。
否応なく、全部見ちまったし! 下手して捕まったらどうすんだよ。
なんで裸で俺に抱きついてるかね、この子は。
深呼吸してから、俺はようやく多少落ち着き、今度は用心して布団をずらしていく。すると、小さな顔が現れ、長いまつげが震えてそっと目が開いた。
それはもう、どこまでも澄み切った青い瞳が。
しばらくはぼおっとしていたが、すぐに顔がにこっと笑み崩れ、くすくす笑う。
「うふっ……ぱぁ~ぱ」
少しはにかんだように呼ぶユメは、当たり前のように俺の胸にしがみつき、囁いてきた。
「昨日の夜、かなり長い時間かけて、お風呂で洗ったのよ。……どう、きれいになった?」
「お、おお……」
しっかり頷いてやったが、同時に俺は思う。
おまえもちゃんと部屋をもらったろうに、なんで一緒に寝てるかね。
……まあ、別に文句はないけど。




