汝、闇の力を知るべし
「つ、疲れた……」
盛大な宴が終わり、俺はようやく当面の俺の部屋とされた場所へ引っ込むことができた。
ちなみに、宴の内容がまた凄かった。
体育館みたいな広間に長テーブル一つだけで、そこにありとあらゆる料理が揃ってたからな。
おまけに、超可愛いメイドさんばかり二十名近くが広間の隅で集まり、楽器を鳴らして、俺達が食ってる間中、演奏してくれたりして。
緊張するわ、スカートの短さに目が行くわで、料理どころじゃなかった。
あと、どうもあのアデリーヌって子は、地球世界の存在を普通に知っているらしい。
基本は洋食なんだが、少ないながら米もあったし、多少は味が違うものの、カレーライスまであったぜ! ビュッフェ形式のホテルかと。
中世にジャガイモはないって話なのに、普通にそれも入ってたし。
まあ、よく考えたらここは異世界であってヨーロッパの中世じゃないし、おまけに先史文明やらも残ってて、科学やら魔法やらが、かなりごっちゃだ。
その証拠に、照明だって蝋燭のシャンデリアもある代わりに、普通に魔法石による明かりもあるしな。
ちなみに、俺の部屋として与えられたこの部屋は、ベッドからテーブルから机からチェストから、必要な家具が全部揃っている。
それでいて、部屋が二十五畳くらいはあるせいで、全然狭苦しく見えないという。
家賃二万のアパートに住んでた身としては、金持ちすげーとしか言い様がない。
だがそのお陰で今、連れてきたユメは、メイドさん達が丁寧に風呂に入れてくれている。
まともな人間扱いされるようになったどころか、いきなり王侯貴族の扱いである。
俺は緊張するんでそんなサービスいらんが、ユメにやってくれるのは喜ばしい。嬉しい限りだ。
これで多分、あの子も元の美貌を取り戻してくれるだろうしな。
「というわけで、俺はちょっと仮眠でも取るか」
天蓋付きのベッドに寝転び、深々と息を吐く。
今日一日で、普段の人生半月分の刺激があった気がするぞ。
などと、どっぷり休憩しようとしていたのに、いきなり声がした。
『かなり事態が進んだね』
「うおっ」
そ、そうだ……呑気なことに、俺はすっかり忘れていたが、そういやこの少年がいたな。そもそも、どこの誰かも謎だが。
「話しかけてくれるのはいいが、いきなりは驚くからよせ、カオル君」
『……だれ、その人?』
「本来は、カヲル君だけどな。なんとなく雰囲気似てる気がしたから。しかし、おまえはカヲル君より、カオル君の方が似合いそうだ。それとも、本名を名乗ってくれるか?」
『ああ、アニメの彼ね。いや、そのカオル君って呼び方でいいよ。そういえば、立ち位置くらいは少し似てるかな。見方によるけど』
謎の少年のくせに、そういうアニメは知ってるのな、この子。
となると、俺と同じ日本人だろうか。
考えている間に、カオル君が何かの続きのように言った。
『時にレージ、一つぜひとも訊きたい。闇の力と光の力があるとして、両者のどちらが正義だと思う?』
「そんなのは、力をどう使うかによるだろ」
俺は即答した。
「力の系統が違うとしても、それだけじゃ正義か悪かなんて判別できない」
『正解だ! 期待以上の答えだね』
やたら満足そうにカオル君は言った。
『君がそういう考えでいてくれる限り、僕は君の味方さ。では、闇の力については、どこまで知ってる?』
「自慢じゃないが俺は、絶賛、記憶喪失中だ。とはいえ、今欠けている記憶が戻ったとしても、そんなのは多分、何も知らないと思うが」
『じゃあ、僕が教えてあげる。闇の力とは、つまり暗黒系と言われる魔法体系の一つで、最大の特徴は普通の魔法に加え、さらにファミリアやホムンクルスと呼ばれる人造生命を生み出したり、空間や時間を操ることができたりするんだ。ただ、これらはあくまで、世間に暗黒系として知られているものだけ』
カオル君の声が、脅すように低くなった。
『他にも通常の魔法がカバーできないような特殊なものは、ほぼ全部が暗黒系――つまり、闇の系統とされているね。人間が扱うべきじゃないって戒めでね』
「ほう? そりゃ生命を生み出すような魔法は、いかにも恐ろしげだが……しかし、そんなの誰でも彼でも使えないだろ?」
『それは無論。でも、君は使うべきじゃないか? だって、闇の軍勢に入ったんだろ? なら当然、ブレイブハートを擁する光の軍勢とだって、いつかは激突するかもしれないよ』




