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引き取った女の子は邪神の転生体でした  作者: 遠野空
第一章 落ちぶれた闇の軍勢
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ユメとの再会

 

 ギルド前には、既に四人乗りの馬車が来ていて、俺とアデリーヌが近付くと、タキシード着たじーちゃんが恭しくドアを開けてくれた。


 しかも、俺を無視するどころか、むしろちらっとこちらを見て、畏怖の表情を見せたような。まあ、これも気のせいだろうけどな。

 ちょっと心細かったが、最後に見送りに出てきたサクラが、こう言ってくれたのは救いだった。


「なにかこの世界へ来た目的があったんでしょ? 状況に流されて、それを忘れないようにね。もしもわたしに用があれば、このギルドへ来れば、居場所がわかるようにしておくわ」


「ありがとう! 真面目な話、おまえのお陰で助かった」

 手を握る根性はないんで、俺はサクラに無理して笑いかけた。

「覚えてなくても、自分に確たる目的があることだけは、わかっている。それをちゃんと取り戻すまでは、油断しないつもりだ。おまえも、あまり無茶するなよ」

 珍しく偉そうに反抗せず、サクラはただ黙って頷いた。


「じゃあ、またな」

「ええ、また」


 それを最後に、俺はアデリーヌに促されるまま、馬車の中へ――サクラは、ギルドの建物には戻らず、そのままどこかへ歩き去った。

 実にあいつらしく、背筋を伸ばした颯爽とした歩き方で。


 まあ、どうせすぐまた会えるだろう。

 なんだか、そんな予感がするからな。





「レージさま。失礼して、同席させて頂いてもよろしいでしょうか?」


 俺を先に乗せた上に、なぜか馬車の脇でそんな質問をするアデリーヌに、思わず苦笑してしまった。

 この人本当に、俺を殿様かなんかと間違えてないだろうか。


「これは貴女の馬車でしょうに。一人だと落ち着かないんで、ぜひぜひ」

「ありがとうございます!」


 執事の手を借り、満面の笑みで正面に座った彼女に、俺は早速頼み事をした。

 わがままなのは承知だが、パトロンになってくれるそうだしな。

 元々俺は、記憶が戻ることを期待して、衝動のままに動くと決めてるし。


「ところで、この王都だか帝都だかに、ホーム(孤児院)はあります? 孤児が歩いてここに来られるくらいの距離で?」





 短いやりとりの結果、確かに帝室が管理するホームが、この近くにあるらしいとわかった。

 距離的にも、ちょうど幼女が歩いて来られる距離、ギリギリだとか。

 そこで俺は、アデリーヌに頼み、先にそのホームへ寄ってもらった。


 場所は馬車で行けばすぐだったが、先程のギルドのような建物を想像していた俺は、かなり意表を突かれた。


 そこは路地の奥まった一番どん詰まりにあり、馬車は最後まで入れないので、俺はアデリーヌには、途中で待ってもらうことにした。

 ついてきたがったけど、遠慮してもらった。


 なんとなく、そうした方がいい気がしたので。





「しかしまあ……なんというボロ」


 平屋の木造長屋みたいな家屋が一つだけと、それに猫の額ほどの庭があるだけの、実にみすぼらしい場所だった。

 今は自由時間なのか、子供達が思い思いに遊んでいるけど、なぜかみんな暗い顔をしている気がする。全然、楽しくなさそうだ。


 年齢はさまざまだったが、子供達はみんな、洋服以前の手抜きワンピースみたいな貫頭衣を着せられている。それも、地味な灰色をしていて、下手すると囚人に見えるだろう。

 俺はまばらに子供が遊ぶ庭をざっと見て、書き込みの相手が誰か、探ろうとした。

 なんのアテもないんで、これで勘が働かなければ、一人ずつ尋ねて回るしかない。

 しかし……実際には必死で探す必要などなかったらしい。


 というのも、俺が柵の外に立って庭を見回し始めた途端、一人の女の子がトコトコと近付いてきたからだ。


 どうやら最初から俺に注目していたらしく、恐ろしいほど真剣な青い瞳を、ばっちり俺に向けている。なるほど、年齢は八~十歳くらいだろう。

 あのスキンヘッド親父が「おそらくすげーべっぴんさん」という、妙にあやふやな言い方をしたことを、今こそ理解できた。


 元がどうあれ、ここまで肌や髪が汚れていたら、そりゃ見分けつかんだろ。それも、このホームの子供、全員がそんな感じだしな。くそっ。

 俺が密かに憤慨している間に、その子は用心深い足取りで柵を隔てた向こう側に立ち、俺をじっと見つめた。ひどく熱心な青い瞳で。




「……おじさん、どこかでユメと会った?」


「お、おじさんはひどいなっ」

 俺は不覚にも、泣き出しそうになった。

 なぜふいに泣きたくなったのか、まるで理由はわからないけれど。


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