表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
引き取った女の子は邪神の転生体でした  作者: 遠野空
第一章 落ちぶれた闇の軍勢
62/140

金持ちお嬢様のヒモになるのね(byサクラ)


「いやぁ、臣下というか……そもそも俺は」

「ご当主、ちょっと失礼します!」


 自分でもそう説明しかけた途端、スキンヘッド親父がいきなり俺の腕を掴み、カウンターの前まで引きずっていった。




「痛いって! なんだよっ」

「いや、親切な俺は、先に教えておいてやろうと思ってな」

 おっさんは難しい顔して言いやがる。


「いいか、間違ってもあのお方を怒らせるなよ。一般庶民で知ってる奴ぁ少ないが、あの方が当主を務めるリュトランド家は、貴族の間じゃ『帝室の金蔵』と呼ばれているほどだ。放蕩と悪政で傾きかけてる帝室の財政を、あの方の家が支えてるのも同然ってことよ。わかるか、わずか十四歳で、既に帝国のタマを握ってんだぜっ」


「ま、マジかっ」

 その下品な言い方は置いて、あの子って十五歳のサクラよりまだ年下かっ。

 それであのスタイルかっ。外人さんの成長度は半端ないなっ。


「マジもマジ、大マジだ。世の中、金握ってる奴の権勢が半端ないってのは、いくら世間知らずっぽいあんたでもわかるだろ? ロクストン帝室だって、あの人には頭が上がらないと聞く。だからくれぐれも逆らうな。あくまでたとえだけどな、仮に連れて行かれた先でここを舐めろとか言われたら、黙って舐めとけ、なっ?」


「俺はバター犬かよっ。だいたい、そういう勧誘じゃないわっ」

 こ、このおっさんの勘違い、ひでーなっ。





「ジョン!」


 いきなりアデリーヌが叫び、俺と親父は揃って飛び上がりそうになった。


「レージさまに余計なことを吹き込まないで……まさか、わたくしの悪口を言ってたのではないでしょうね」


 おぉお、俺に対するのと打って変わって冷ややかな声だぞ。

 おまけに、腰に片手当ててたりして、眼光も鋭いっ。この子も見かけとギャップありそうだなっ。羊の皮を被った狼的な。

 俺は人知れず戦慄した。俺が出会う女、こんなんばっかかっ。


「い、いぇええ、それこそまさかですよ、ご当主っ」


 あっという間に、親父の顔が営業スマイルで溢れた。

「うちのギルドにはよくして頂いてますし、よもやそんな」

「レージさま!」

 言い訳垂れ流しの親父をまた無視して、彼女が逆に俺のそばにやってくる。


「このような場所では、人の目もございましょう……どうぞ、わたくしの屋敷でお話しの続きを。既にささやかながら、歓迎の準備をさせております故」


「……それって、もしかしてパトロンの申し出でしょうか」

「それどころではありませんが、そのようにお受け止めくださっても、大丈夫ですわ! 我が家が全力でレージさまをバックアップ致しますっ」

 アデリーヌはにこやかに言う。


「当家の人脈も金脈も、ご自由にお使いくださって構いません。もちろん、このアデリーヌ自身も」


 ……う。

 なんか今のセリフ、腰にずきっと来た。

 流し目で言われると、言葉の後半になんとなく深い意味を感じてしまうな。気のせいに決まってるが。というか、この人すげーナチュラルに俺の手を握ってきて、耐性ない俺はヤバい。あまりまっとうな思案が浮かばん。


 そんな美味すぎる話に、うかうかと乗っていいのか。

 秋葉原で絵売りセールスに引っかかるのって、こういう感じなのかね。


 小心な俺は、なぜか俺達から離れて、「こんな人達、全然知りませんけど?」という顔で立っているサクラに訊いた。




「おい、おまえはどう思う?」

「……わたしに訊かれてもねぇ」

 元の気怠い表情に戻ったサクラは、こっちを見もせずに長い髪を掻き上げた。


「でも、いいんじゃない? ついさっきまで、レージは寝る場所もなかったことだし、そりゃ援助も必要でしょう」


 なかなか、痛いところを突きやがる。

 そういえば、ここへ入ってからころっと忘れてたけど、俺は現状、宿無しだ。

「当家にお越し頂ければ、ご不自由は一切、おかけしませんっ」

 アデリーヌがここぞとばかりに詰め寄ってきた。

 む、胸が当たりかけだぞ、俺の腕に。


「生涯、レージさまの覇業をお助けし、当家の総力を挙げて応援致しますっ」


 俺の覇業って……この人、俺のことを信長かなんかと間違ってないか。俺にどんな覇業ができるっていうんだ。

 本当に、後でスーツのねーちゃんが出てきて、絵とか壺を買わされたりしないよな?

 ……しかし俺は、考えた末に結局、この申し出を受けることにした。

 だって、サクラの言う通り、今日の昼飯にすら、困ってる状態だからな。


 騙されたところで、俺から取れる銭なんざないぜ! そこは強みだっ。





「では……申し訳ないが、しばらくの間お世話になるということで――わっ」


「ご決心頂けましたか!」

 握った手にキュッと力を入れたアデリーヌが、ぐっと顔を近づけ、感極まった声で囁く。

 ただし、またしても親父達に聞こえないような音量で。

「これで、世界の運命は決したも同然でございます……闇の力の真の偉大さを、世界に示しましょうぞっ」

 ……はい?

 なんか絶対、勘違いしていると思ったところへ、サクラが遠くからボソリといった。



「そう……金持ちお嬢様のヒモになるのね」



 ――ぐっ!

 ヒモって言うな、くそっ。


 だいたいこいつ、絶対、俺に聞こえるように言いやがったなっ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ