体力値(HP)計測上限越え――しかし
「子供の悪戯書きに見えるけど、でも文章は真剣そうね」
サクラも気を引かれたようだ。
「だよな? 俺、すげー気になる……なんでだろう」
「不思議なのは、闇の軍勢よ。それって、もう百年も前に滅びているんだけど」
「そうなのか!?」
「まぁね」
なぜか複雑な表情で、サクラはようやく、ブレイブハートという言葉の意味と、自分の正体を教えてくれた。
簡単に言えば……元勇者が日本へ転生していたですとー。
有り得んと言いたいところだが、こうして実際に異世界に来ている俺みたいなのもいるしな。だいたい、サクラはそんな嘘つかないだろう。
「なるほど、おまえの破格なステータスもこれで納得だが、しかしそうなると、闇の軍勢なんて、もうこの世界に存在するはずないことになる。じゃあ、この募集広告は悪戯なのか」
呆然としていると、どこからか髭のおっさんが戻ってきて、俺を呼んだ。
「ほら、これだ! 最新のリングマジックよ」
細くて黒いリングを、ドヤ顔で振る。
「あ、ちょっとその前に、この書き込みについて、何か知らない?」
俺は子供の落書きみたいな募集広告を指差した。
途端に、スキンヘッド親父が苦笑する。
「ああ、それな……剥がしても剥がしても、忘れた頃にまた来て貼るんだよな。近くのホーム(孤児院)の子なんだが、あまり怒るのも可哀想でな。最近じゃ、黙認している」
「……そうなのか。何歳くらい?」
「いやぁ、まだほんの子供だぞ、あの子は。おそらくすげーべっぴんさんだが、年は八~九歳前後じゃないか」
「ぬうう」
なんかその話も、俺の中で違和感が。だいたい、なんでおそらくだ。
なんとなく、これを書き込んだのは中学生くらいだという、妙な予感があったんだがなぁ。
でも言われてみれば、小学生あたりが書いた字だしな、これ。
「ほれ、それよりリングマジックだ!」
子供の広告など、もう忘れたような顔で親父がリングを振る。
やっぱり、忘れてなかったか!
俺は顔をしかめて、金属製リングを見た。
「そんなので、サクラみたいな数字がわかるのかい?」
「おうよ! 付与魔法で一発だぁな。しかも、誤差も少ないぜぇ? 誤魔化しがきかねーから、これが出回って以来、この稼業も仕事がやりやすくなったねっ。ハッタリが通じねーからな」
嬉しそうに言いやがる……今から俺のレベル見たら、あんた腰を抜かすぞ?
あまりのショボさになっ。
どうせレベル1とかに決まってるし。
どきどきしつつも、どうせ逃げるわけにもいかないのだろうから、俺は素直にリングを腕に嵌めた。
「あと、どうすればいい?」
「簡単よ。五秒ほど待ってから、『ステータス前面表示』と声に出せばいいわ。それで、レージの実力が明らかになる。ワクワク」
「棒読み口調で、なにがワクワクだ! でも……やるしかないのか」
未練がましく呟いた後、俺は言われた通りに声に出した。
一瞬だけリングが熱くなった気がしたが、叫ぶほどではなかった。
しかし、五秒どころか三十秒ほど待っても、全然何も起きない。
「故障か?」
「え、あれ?」
親父は不審そうに首を傾げた。
「いやぁ……今朝方も使ったばかりで、そんなはずはねーんだが。なぜかあんたの場合、よほど計測に時間かかるのかもしれん」
「待って、出たわ!」
サクラが指摘するまでもなく、俺にも見えた。
しばらくじいっと見つめて、またしても首を傾げる。どう考えても、納得いかないからだ。
それは俺だけじゃないらしく、親父もサクラも熱烈凝視中だった。
「なあ……これ、やっぱり壊れてるんじゃないか?」
「レベル66……やっぱりレージは怪しい奴だったわね」
妙に嬉しそうにサクラが言いやがる。
ちなみに、透過スクリーンみたいに表示された俺のデータは、こんなのである。
【Lv66 HP99999 MP1356】
もちろん、以下ずらずらと筋力値やら、敏捷値やらが続く。
レベルとHPにMPは、あくまで一番メインの数字だ。
「あ、有り得ねぇ」
ようやくぽかんと見てた親父が呟いた。
「体力値が、リングマジックの計測上限を超えてるってことだぞ、これ! 測定可能範囲以上だってことだ!」
そうなのか?
しかし、他の数字は軒並みショボいわけだが。敏捷値なんて、サクラの3分の1くらいの数字だぞ。
このレベル66って、ほとんどHPだけで稼いでるな、絶対。




