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引き取った女の子は邪神の転生体でした  作者: 遠野空
第一章 新米パパの憂鬱
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不審な三名

   

 考えてみたところで、どのみち俺はあのメモ書きを無視して金をパクるほど、根性太くない。

 

 所詮は小心者だしな。

 ただ、これまでの流れからして、いきなりユメを連れて行くのはやめようと思った。ささやかな抵抗だが、問題の人物と会って、ちゃんと自分が納得した上でユメを引き渡そうと。


 そこで、またユメに留守番を命じ、俺は一人で家を出た。

 手ぶらのまま、書かれた地図の家を目指すことにしたんだ。偶然か必然か、そこはあのじーさんが倒れていた公園に近かったので、ついでにそこへも寄ってみた――けど。なぜか、騒動が起きたような様子は全くなかった。

 てっきり、警察の黄色いテープでも貼ってあるかと思ったんだが、暇そうなママさん連中が、砂場で幼児を遊ばせているだけである。


 ……てことはなにか、あの死体は見つからなかった?

 まあ事情はわからんが、今は調べたくてもママさん連中が邪魔だ。いい歳した俺が公園でうろうろしてたら、怪しまれそうだからな。

 やむなく、俺はそのまま公園を離れ、また歩き始めた。





 

 地図の家は、まだ建設途中の住宅地の中にあった。

 一応、ぽつぽつと新築の家が建っているんだが、全体の敷地に比べて数が少ないせいか、まるでジグソーパズルを途中で投げ出したような寂しい雰囲気になっている。 完成した家も、ほとんどはまだ未入居らしい。


 そういや、この何とかニュータウン、施工主である建設会社が倒産してたような気もするな……まあ、家賃二万のアパートに住む俺には、全然関係ないけど。 

 問題の家は奥まった端っこにあり、お洒落な洋風の建物だった。


 ただ、庭には早くも雑草が生えているし、街路に面した鉄門も閉まったままである。

 チャイムを押したが、全く反応なし……一階は雨戸代わりの窓のシャッターも閉まってるし、これは空振りか?

 俺は諦めきれず、自分で鉄門の上から手を回してかんぬきを開け、庭へ入ってみる。ドアをノックしてそれでも応答なきゃ帰ろうと思ったが、駄目だな……ノックしても応答なし。


「う~ん……直談判しようと思って気合い入れたのにな」


 諦め悪く、ドアノブを回してみる。

 おろ……なぜか、簡単に開いたぞ。

「あのー、ごめんくださーい」

 腰の引けた声で呼びかけたが、反応は皆無だった。


 革靴が一足脱いであったので誰かいるように思うんだが、応答はない。かなり広めの玄関口から、薄暗い廊下が真っ直ぐ延び、左右にドア付きの部屋がある。

 とはいえ、ドアが閉まっているので、部屋の中は覗けない。

「もしもーし」

 そっと玄関に滑り込んだ途端、なぜか足下が光った。


「わっ」

 慌てて足下を見ると、一瞬だけ、何か光る円形の記号みたいなのが見えた――気がする。あえて言えば、魔法陣みたいなの?

 ただ、それはすぐに消えてしまい、あっという間に元の玄関に戻ってしまった。

「なんだ、今の?」


 俺は顔をしかめて独白したが……後から考えれば、この時にとっとと逃げるべきだった。屋内に入った途端にこんな変化があったということは、さっきのはなんらかの警報だと考えるべきだったんだ。

 しかし、その時の俺は「もしかして、この家の主がどこかの部屋で倒れて困っているかも」などといらん心配をしてる最中で、逃げるどころか中に上がり込んでしまったのだな。


 ただ、余計な気を回す癖が幸いして、脱いだ靴は壁と一体型のシューズボックスに突っ込んでおいた。これだけは自分を褒めてやりたい。無論、全部後になってから思ったことだが。


「あの……心配なんで、ちょっとお邪魔しますよ?」

 声を出しながら、廊下に上がる。

 まずは上からということで、階段を上がった。

 ここの二階は二十数畳はあろうかというフローリングの広々とした場所で、屋根の傾斜の形がそのまま天井に反映され、まるで二階全てが屋根裏部屋のようにも見えた。


 しかし、正直俺は、そんなのを眺めている場合ではなかった。

 なぜなら、窓際に置かれたベッドに、銀髪のおじさんが横たわっていたからだ。





「げっ」

 危うく逃げそうになったが、そもそもこういう事態を心配して無理に上がったのである。逃げてどうする!?

 自分を奮い立たせ、俺は半泣きで窓際に近付いた。唯一の慰めは、二階の窓にはシャッターが下りてなくて、日光がちゃんと入っていたことだろう。

 レースカーテンはあったが、十分明るい。


 これが真っ暗でいきなり死体を見つけてたら、絶対逃げてたように思う。

 ……この人も銀髪であり、少し若手の執事が上着を脱いだような格好に見える。要は、半ばはスーツ姿だ。

 そして、胸の辺りが血で染まっていて、見開かれた目は天井を眺めていた。呼吸してる様子ないし、これはどう見ても死んでいる――どころか、殺されている!


 何かで刺されないと、こんな傷が付くはずない。

 それに……表情が歪んでいて、ひどく無念そうに見えた。


「ど、どうなってんだ」


 答える者がいないのはわかっているが、それでも俺はボヤかずにはいられなかった。ホントにこれ、どういうことなんだよ! もう二体目だぞ、死体見るのは。


「やっぱり警察に」

 ――電話した方がいいのかと続けかけ、俺は言葉を呑み込んだ。

 うっかり、外を見てしまったせいだ。



 いつ来たのか、歯抜けのような寂しい住宅地を、三人の男が歩いている。他には脇目も振らず、真っ直ぐこちらへ来るように見えた。

 問題なのは、こいつらが全員、帯剣していることだ。


 そう、信じ難いことに、堂々と腰に長剣なんか吊ってる!!


「や、ヤバいっ」

 本能的に俺は口走り、慌てて左右を見る。窓にかかったカーテンはレース素材の薄いヤツだ。向こうからは、まだこっちが見えてないはず。

 ただ、三人とも大股に近付いてくるので、もうこの家から逃げる時間はない。それこそ速攻で見つかってしまう。


 ど、どうすんだ。あんな連中と直談判とか、俺は嫌だぞっ。


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