やみのぐんぜいは、新たな兵士をぼしゅうしています
「おまえ、凄い奴だったんだなあ……」
気まずそうに突っ立っているサクラを激賞してやった俺は、微妙に厳しいような厳しくないような依頼条件を読んだ。
ちなみに、依頼条件なんか書いてあるのは、ランクの上位五十名までだ。
あとは「贅沢言わずに受けろ」って話だろう。
「ここに書いてある禁止事項、全部依頼されたのか?」
「実際は、その倍くらい……最初は真面目なのばかりだったのに、一度、人が多い夜にここへ来たら、それから急に変な依頼が増えたのよ」
すげー迷惑そうに言う。
多分、うっかりサクラの姿見て惚れた奴が大勢出てきて、エロ方向の依頼しようとしたんだろうな。こいつにそんなの期待しても、絶対無理だろうに。
「パトロン制度なんてのもあるのな、やっぱり」
「そう、パトロン側からの募集もあるわよ……ジョンがレベル計測のリング持ってくるまで間があるから、一応は見ておく? 戦闘系のギルドなのに、割と募集の幅が広いわ。上手く向こうが契約結んでくれたら、衣食住の心配はなくなるわね」
「関係ないとは思うけど、一応」
元々俺は好奇心も強い方なので、謹んでお勧めに従った。
やはり、一階ホールのカウンター近くにそれはあった。ただし、これは紙に書いて貼ってあるのではなく、黒板みたいなのに丁寧にチョークで書いてある。
以下、こんな感じだ。
○パトロン希望者からの申し出○
(基本的に契約期間は、最低一年。衣食住を保証する前提)
募集当事者と、下は条件。
デイン家当主
☆見目麗しい女性を希望。剣技に秀でたり、絵が描けたりするとなおよし。
衣食住は当然、それに毎日の謝礼を保証。
タリサ伯爵令嬢
☆先史時代の遺跡に詳しい者を希望します。護衛も兼ねることができれば、優遇。
かかる費用は、全てこちら負担。
ラーデン男爵
☆リュートの演奏に自信ある者。
我と思わん者は、当屋敷にて面談。
女性優遇。年齢に応じてさらに優遇。
以下、ずらずら続くが、こっちも結構数が多い。
当然、「援助してやりたい希望」なんで、金持ちとか貴族ばかりが名を連ねている気がする。
しかし……あからさまに下心が窺える文面もあるな、うん。
興味本位で見ていく俺は、そのうち、「おや」と声に出した。
「なにか見つけた?」
「いや……この申し出は、随分不思議だなと」
俺が首を傾げた文面は、以下のような募集告知だ。
リュトランド家
☆光の神以外の神に近しい方
当家の全力を挙げてサポートします。
ぜひ、お越しください。
「リュトランド家? どこかで聞いたわね」
「光の神以外は置いて、近しい方っていうのはなんだろうな?」
「あえて大事なことを書かず、濁してる気がするわね。まあ、ここは本来、光の神を信仰する国だからでしょうけど」
結局、考えてもわからないので、俺の関心はすぐ他へ移った。
「あ、この横にもボードあるけど、こっちは落書き帳みたいな書き込みだな」
パトロン告知の横に並んだ、小さなボードにも目を奪われた。
これは黒板とかじゃなく、コルク板みたいなのに、小さな紙をたくさん貼り付けてある。
「ジュン、第三ダンジョンで待つ」とか、「今夜、一杯やりたい人!」とか、どうでもいい書き込みばかり――
「うっ」
下の方に貼ってあったくしゃくしゃの紙を見つけ、俺はなぜかどきりとした。
「今度はなにを見つけたの?」
「いや……これだけど……子供かな、これ書いたの」
名刺くらいの大きさしかない紙には、こう書かれていたのだ。
●やみのぐんぜいは、新たな兵士をぼしゅうしています●
……なぜだろうな。
俺、これを見ていると、ひどく心が騒ぐ。




