交際の申し込みは受け付けない。戦闘が絡む仕事のみ!
「それで、レージはどういう仕事が希望? ここのギルドは職業別にかなり細かいわよ。レージだと、やっぱり単純作業系とかかしら」
「……俺は職業に貴賎はないと信じているが、なんでそれ限定で『やっぱり』だ?」
「じゃあ、なにができるのよっ」
忍耐という導火線の長さがミリ単位しかないサクラは、早速、強面に出やがった。
「俺も傭兵系のギルドがいい。戦うために来たんだから」
口にした途端、俺は自分の正気を疑った。
いや、無理だろう、そんなのっ。
もちろん、そう思ったのは俺自身だけじゃなく、サクラもわざわざ立ち止まって振り向いた。
「本気なの?」
――だよなあ。俺自身が激しく疑問だ。
「自分でも不思議だが、そうすべきだという気がする。根拠はないけど、俺は誰かのためにここへ来た気がするんだ……でもって、その誰かっていうのと一緒にいると、必ず戦闘になる嫌な予感が」
「ふぅん」
自分でもわけわからない言い訳の垂れ流しを、サクラは別に笑いもせず聞いてくれた。
それどころ、またしげしげと俺を見つめ、「そうね、意外と向いているかもしれない」などと寝言を言う。
自分から申し出ておいてなんだが、んなわけあるか。
「なぜそう思う?」
「あなたの中に、巨大な力を感じるから。少なくとも、あなたにはなにか秘密があるわ」
「……それ、本気で言ってる?」
「もちろん」
また笑いもせずに頷く。
「最初にあなたを見つけた時だって、その気配を掴むのは簡単だった。ある程度まで接近すれば、まるで暗闇の中で灯台の明かりを見つけたように巨大な波動を感じるもの。わたしは自分の戦士としての勘を信じてるから、戯言を口にしている気はないわ」
「じゃあ、本当に向いてるといいな。なんであれ、俺は戦闘経験ないし……むしろ、サクラの勘にかけてみたい」
俺の希望を聞いたためか、サクラはわざわざ三ヶ月前に自分が所属したばかりのギルドに案内してくれた。
割と真新しい石作りの屋敷で、見た目は教会みたいなところである。
入り口上には金属製の看板がかかっていて、そこには二振りの剣が交差している意匠が彫り込まれてあった。
ギルド名は、「死兵連盟」というそうな……縁起悪いぞ、おい。正気か?
もう誰が見ても戦闘系ギルドばりばりっ、みたいな。
驚いたのは、両開きのスイングドアを開けて二人で入ると、口髭蓄えたスキンヘッドのおっさんが、カウンターから飛んできてサクラを迎えたことだろう。
もう、脇から見てて「揉み手でも始めないだろうな、このおっさん?」と俺は心配になったね。さすがに揉み手はしなかったが――サクラをVIPクラスのように扱っているのは事実だ。
俺が横から遠慮がちに理由を訊くと、おっさんはカウンター横の壁を指差した。
「うちのギルドは、ランクが全てだからな。腕のいい傭兵は優遇するさ……本物は数もすくねーし、難易度高い依頼の成功率も高いわけよ」
どれどれと思って壁を見ると、なるほど、そこにはギルドメンバーと思われる名前がずらずら書いてある。
名前は全部、通称っぽいが。
「トップの、SSSクラスって枠が、一人だけいるだろ? 通称ゲーマーっていうのが? それがこの子ってわけさ。あんたも加盟希望者なら、まずレベル計測だな」
「お願いするわ、ジョン。計測してあげて」
「了解!」
おっさんはサクラに何か言われて、すぐにどこかへ去った。
その間俺は、リストに目が釘付けである。
「へぇええええええ」
ていうか、なんだよ、その通称はよ。ゲーム好きだったのか、サクラ。
感心した俺は、ゲーマーの横の数字を見て、ちょっと驚いた。
○ネーム 性別 クラス○
ゲーマー:女性:SSS
依頼条件:(必ず、下記を精読のこと!)
戦闘が絡む仕事全般。
ただし、若い男の護衛は一切しない。男女問わず、交際申し込みは受け付けない。
金は払うからその分の会話だけでも、というのもお断り。お友達もいらない。
絵のモデルもしないし、添い寝もしない。
貴族や富裕層からの、パトロンの申し出も必要ない。専属契約はしない。
戦闘が絡む依頼のみ!
報酬は応相談だけど、全額前払い即金のみ。
○レベル計測値
Lv49 HP7865 MP9001 武器:破邪聖刀 魔法付与Lv4
俺は阿呆のように口を開けたまま、壁のリストを見上げていた。
ゲーマー、凄すぎ!
二位の奴はレベル10とかなのに、なんだこの子のずば抜けた数字は?




