殺し合い、上等
「いや、待てっ。俺は無実だ! そもそも、呪縛がどうのって話も、全然心当たりがないっ」
俺は慌てて手を振った、振りまくった。
本当は首を横に振りたいところだが、今、魔法付与の刃みたいなのを突きつけられてるからな!
「言ったろ? 俺も記憶がないっ。ただし、俺は今ここへ着いたばかりだが。現状、まだあたふたしつつ、自分の記憶を探ってどうするか考えている段階だっ」
恐怖は人を饒舌にする場合もある。
特にこのサクラ、なんとなく殺す時はごくごくあっさりと決断して殺す奴だという気がするからなっ。とんでもないの引っかかったぞ!
ただ、幸い今回は、殺戮衝動を堪えてくれたらしい。
しばらく俺の顔を穴が開くほど見つめてから、ようやくサクラは刀を引いた。
「……まあ、いいでしょう。やっぱり嘘をついているように見えないし、それにわたしも記憶が欠けているものね。運がいいわね、あなた」
見逃してやったのをわかってるか! 的な目で睨まれた。
いちいち、人様にガンつける奴だ。
「自分がそうでなきゃ、絶対にそんな言い訳、信じなかったわ」
話しつつも、刀をやたらと美しい手つきで、流れるように素早く鞘に戻す。最後にパチンと音がして、はっと我に返る始末だ。ほれぼれする動作だな。
なんかもう今の動きだけでも、テレビで見る侍より遙かにサマになってるぞ。
「信じてもらえて有り難いっ」
お互い、わかりあえたところで、ナンパそうな若者二人が近付いてきて、サクラを非常に卑猥な目つきで見た。
どっかの職人見習いという感じだが、まあそれはどうでもいい。
多分、サクラの美貌に惹かれてふらふら寄ってきたんだろうが、このセーラー服女がまた、恐ろしく愛想がないのだな!
近付いた途端、じろっとそいつらを睨み、「取り込み中よ。とっとと消えなさい!」とごく平静な、しかしやっぱりドスの利いた声で言った。
……途端に、二人とも青い顔でささっと回れ右したのが印象的である。やっぱみんな、この子には殺気というか、触れれば切れそうな印象を受けるらしい。
あと、この子やっぱり、しょっちゅうナンパされるみたいだな……まあ、見た目だけは極上だからなあ。騙されるよな……目を見るまでは。
「ねえっ、これからどうする気?」
いきなり言われ、俺は焦った。
「それも俺が訊きたいところだが」
「まさか、一日中、そこで座ってるわけにもいかないでしょう? とりあえず、男らしくお金稼ぎなさい。なにもわからないなら、まずそこからよ」
「……は?」
「いいから、早く立つ!」
気が短いサクラは、たちまち柳眉を逆立てる。
何様だ、こいつはっ。女子高生なら、十九になってる俺の方が年上だぞっ。
しかし、こう見えて俺は女の子耐性弱いので、表面上は言われた通りに立っちまった。
「わ、わかったっ」
わけがわからないまま、俺達は連れ立って歩き始めた。
つか、もう少し優しいガイドさんがいいんだがな、俺としては。
引率の教師みたいに前を歩くサクラとポツポツ話していて、俺は驚愕の事実を知った。
こいつは女子高生どころか、まだ中三らしい! しかも、この春になったばかりだとか。なんという、見かけと中身のギャップが激しい女だ。
身長高いのは置いても、中三女子のくせに、肉厚で長大な刀を軽々振り回しやがって!
セフィロスでも目指してんのか、この子は。
それと、歩いている間にブレイブハートやら呪縛のことも訊いてみたけど、それは教えてくれなかった。ケチんぼめ。
「今から、ギルドが集まっている場所へ行くけど、どういう仕事が希望? というか、なにが得意なのレージは?」
いつの間にか、名前を適当に呼び捨てにされている俺は、こいつを見習ってフランクに行くことにした。あの少年の声じゃないが、不公平はいけない。
「得意なことと言われてもな……サクラは最初、どうやって稼いだんだ?」
「わたしは戦うこと全般に慣れてるから、傭兵とか、冒険者系のギルドへ行って、その手の仕事を受けて暮らしているわ」
「……危なくない?」
「別に。わたしは、殺し合いも上等よ」
おぉお、アニメ観ているような年頃の少女が、しれっと言い切りやがったぞ!
まあ、俺もアニメ観てるけど。
「既にこっち来てから、だいぶ賞金首もとったしね。この前なんか、仲間の報復に来た連中に寝込みを襲われたけど、全員、その場で返り討ちにしてやったわ……それはお金にならなかったけど。でも、人の下着姿を見たんだし、当然の報いよね」
長い髪をかきあげつつ、気怠そうに言う。
「……マジかよ。なんてハードな人生だ」
本当に中三なのか、この女っ。
あと、こいつの着替えとか覗くと、死ぬな……気をつけよう。




