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引き取った女の子は邪神の転生体でした  作者: 遠野空
第一章 落ちぶれた闇の軍勢
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碧川サクラの呪縛


すげー、ヤバそうな女だ。


 いつもの俺なら、絶対にさりげなく立ち上がり、そのまま雑踏に紛れようとするだろう。

 つまり、トンヅラこくってことだ。

 女の子相手に情けないと思う奴がいたとしても、俺のようにこの子を間近で見れば、絶対に気が変わるはずだ。


 いや、別に化け物みたいに見えるわけじゃないんだな。


 むしろこいつ、絶世の美女レベルじゃないだろうか。美少女と言わないのは、雰囲気がすげーアダルトで大人っぽいからだ。

 髪型とかストレートロングで、むしろ全然少女っぽいのに。

 おまけに、エロゲーのメインヒロインみたいに、白いヘアバンドまでしてるし。


 多分、こいつの切れ長の目があまりに鋭く、眼光に人の肺腑はいふえぐるような迫力があるせいで、後の印象が全部そっくり、脳内否定されちまうんだろう。

 ホント、目つきと殺気以外は、腰の位置は高いわ足は長いわ、胸もそこそこあるわで、どう見ても年齢に見合わないアダルト女子高生なのに。

 セーラー服じゃなくてドレスでも着てたら、絶対俺は、女子大生くらいだと思ったね。


 ちなみに、髪はつややかな黒で、瞳も黒い。

 この辺の通行人はみんな金髪碧眼なんで、俺と同じで浮いてるぞ。

 下手すると、同じ日本人に見えるが……それでも、おそらく混血の人かな。顔立ちがあまりに整いすぎだし。


 ……ああっ、そんな風に見とれてたら、早速、すぐ前に立たれてしまった。

 しかしまあ、至近で見る眼光の、鋭いこと鋭いこと! まつげも長くて綺麗なのに、眼光は「過去に五、六人は殺してるからね」的な瞳で、嫌過ぎるっ。





「ねえっ」


 おわっ、ついでにドスの利いた低い声っ。

「な、なんでしょう」

 既に逃げ腰の俺の返事に、相手の声はさらに低くなる。


「どうしてわたしが、あなたを対象に呪縛をかけてるわけ?」


「……え?」

 当然、俺はわけがわからずポカンとした。

 初対面の相手に呪いがどうとか言われても、困る。

 俺の顔を子細に眺め、女の子は苛ついたように捲し立てた。


「わからないの、本当に!? わたしの身体の一部が、なぜか誓約の呪縛対象となっているのよ。三ヶ月前からずっと探してて、ようやくわたしが誓約をかけた相手を見つけたら……それがあなただったわけ」


 腰を屈め、ぐっと顔を突き出した。

「うおっ」

 鼻先にこの子の顔が来たため、俺はどっと焦った。

 ああ、こういう女の子は絶対にいい香りするだろうなと思った前印象通りだが、それより、目つきが怖いっ。

「説明してっ」


「お、俺がしてほしいわあっ。だいたいなんの話だ、呪縛って! えっ、ボンデージとか、そういうアレかっ。SM方向の話か!?」


 俺がようやく言い返すと、女の子は綺麗な弧を描く眉をひそめた。

 なにこいつ、不潔っ! みたいな目つきがたまらん。


「おかしいわね……そこら辺の男と同じで、馬鹿でスケベだけど、嘘をついているようには見えない。わたしは一体、あなたにどんな誓約を誓い、この身に呪縛をかけたのかしら」

「そう言われても」


 じゃなくて、誰が馬鹿でスケベだよ、このハーフ女がっ。ちょっと胸とか足とか見ただけだろっ。まさか、パンスト穿いた奴がこの世界にもいるとは思わなかったんだ!

 むっとしかけたが――そこで俺は、彼女の言い分に違和感を覚えた。

 もしやその呪縛とやらに、自分でも記憶がないのか。


「もしかして君、俺と同じで記憶が抜けてる!?」

「まさか、あなたもなの?」

「遺憾ながら。俺は、間宮玲次というが、君は?」

「しかも、見た目通りに日本人だったの……ね」


 よほど驚いたのか、その子は姿勢を戻し、大きく息を吸い込だ。

 見た目は日本人離れした彼女は、ぶすっと愛想のない声で言う。





「わたしは、碧川サクラ。ほぼ三ヶ月前にここへ来たわ。なにか目的があったはずなのに、それをすっかり忘れている」


「みどりかわ……さくら……むう」

 なにかアレだな、その名前、俺の心に響くな。

 なにかこう、喉元まで出かかってんだけどな……そう、アレだよアレ……そうだっ。


「そう、アレだっ。ブレイブハート!」


 俺がそう呟いた時のこいつの動きを、どう表現したものか。

 とうに刀の柄から手を放していたにもかかわらず、右手が霞んだと思うと、次の瞬間には微かな風の音がした。


 驚くべきことに、抜刀する途中の姿を俺は全く見ていない。

 目で追えるようなスピードじゃなかった。

 腰を落とし、抜刀し、そして横殴りの一撃を叩きつける――これらの動作を、こいつはほぼ一瞬で終えていた。


 なんか剣客みたいだと思った俺の印象は、誤ってなかったらしい。

 サクラがその気になれば、もう俺の首は落ちてたはずだ……いつの間にか、自分の喉元に、輝く長大な刀を突きつけられていて、俺は生唾を呑み込んだ。


 今の剣風が鳴るようなとんでもない速度の剣撃を、首の皮一枚でぴたっと止めたのか、この女子高生!?

 目を細めたサクラが、冷風が吹き付けるような声で訊いた。


「なぜ……わたしがブレイブハートだと知っているの?」


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