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引き取った女の子は邪神の転生体でした  作者: 遠野空
新たなる序章 光は闇を拒絶する
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ぼっちのレージ



 俺こと間宮玲次は、元々は都内に住むわびしいフリーターに過ぎなかった。


 しかし、ひょんなことから、なんと異世界で邪神と恐れられる娘を持つに至り、その子と一緒に行動するようになった。

 今回も、非力ながらも娘に寄り添うために、あいつと一緒に異世界であるフランバール世界とやらへ転移したのである……とにかく、そのはずだった。


 ところが、その直後のことだっ。

 なぜか周囲の景色が一変したので、「お、新たな世界に転移かっ」と期待して見渡したところが、どうも様子が違うのだな。

 いや、さっきまでいた都内某所とは全く違うには違うが。

 ……なぜか俺は、ただっ広い花園のような場所に、一人でポツンと立っていた。




「え、ええっ!?」


 慌てて周囲を見たが、ユメはおろか、あのイケ好かないレイモンもいないし、ヒューネルもいない。ブレイブハートのサクラもいないという……なんで俺だけが、一人ぼっちでこんな花園に立っているのか。


 どっと心細くなってきょろきょろしたが、ここは本当に、派手な色が乱舞したような満開の花園が広がっているだけで、建物らしいものがなにも見えない。

 一応、東の遙か向こうに光溢れる「なにか」が見えたが、あそこまで歩いたら、三日はかかりそうだ……だいたいあれ、なんだろうな……巨大な人影にも見えたりするが。


 途方にくれて考えていると、ふいに荘厳な女性の声がした。





『神の座を自ら捨てたのは、貴方らしくない過ちでしたね、レージンフィルス』


「……えっ」

 俺は慌てて周囲を見たが、周囲には女性どろころか、猫の子一匹いない。

 しかし、相変わらず声だけは脳裏に響いた。


『とはいえ、これはわたくしにとっての好機でした。お陰で、貴方達が異世界転移という巨大な力を解放した隙を突き、貴方を出し抜くことができました。わたくしは光を司る神として、断じて地上に闇の勢力が広がることを阻止せねばなりません』


 この時、俺はひどく重要なことを聞いていたんである。

 しかし、その時の俺はとにかくユメが消えたことに動揺していて、それどころではなかった。

 今の偉そうな演説で俺が認識したことと言えば、「紙……いや、神かっ。なら、その力で俺をユメのそばに戻してくれよっ」という一念のみである。

「おい、あんたが神様なら、俺の頼みを聞いてくれっ。俺を娘のそばに戻してくれよっ」


『あいにくですが、それをそのまま聞き入れることはできません。今の貴方に言っても仕方ありませんが、わたくしはそもそも光の神……闇とは相容れない。本来なら、貴方の命もこの場で奪いたいところです。しかし……貴方は既にダークスフィアと一体化し、記憶以外は潜在的な力を取り戻している。簡単に殺すこともできなくなってしまった。とはいえ、貴方が人の身に執着するなら、わたくしとて、まだ打つ手はあります』


 前半は随分と口惜しそうに、そして後半でかなり意地悪そうな声音になった。

 というか、本当に悔しいのは、このねーちゃんのゴタクを聞かされている俺である。


 俺の力がどうのとかいう部分はそもそも理解の範疇外だが、こいつが真剣に俺の助力をする気がないことはわかる。

 ならば、こうして話すこと自体、時間の無駄だっ。

「おいっ、あいつのところへ戻す気がないなら、せめてロクストン帝国へ俺を送ってくれ! 後は自分でなんとかするからっ。頼むぜ、なあっ」


『いいですとも。元よりわたくしはそのつもりでした。わたくしとて、自分のやっていることが神々の均衡を破るルール違反であることは自覚しています。ですから、せめて貴方の望みに沿う形で、ロクストン帝国へ送り出してあげます……ふふふ……その代わり、大きな代償を父と子に与えましょう。元々、貴方も私の使徒とも言うべきブレイブハートを全滅させたのですから、これはお返しというわけですね……ふふふ』


「な、なんだ、そのふふふて……ていうか、あれ?」





 俺はふいに不安になり、頭を抱えた。

 陽が燦々と降り注いでいたにも関わらず、周囲の陽光が陰り、なぜか俺の回りだけが薄暗くなった。

 明らかに今の声が、俺になにかをしたような。

 事実、背中に嫌な汗までかき始めている。


「ていうか、今ブレイブハートって言ったか? おかしいな、俺はそいつを知ってるはずなんだが、思い出せないぞ」


 ヤバい……俺はなにか、なにかそう……大事なことを忘れつつあるような気がする。

 ……今この瞬間、絶対に忘れるべきではなかったことが、指の間から砂がこぼれるように、急速に消えているような。

 忘れるな、思い出せ! そうだ、俺はユメのために……ユメ……誰だっけ、それ。


『さすがのわたくしも気が咎めるところですが』


 さっぱり悪びれていない女の声が言った。


『これ以上、貴方達に干渉すると、他の神々の目も引きそうですね。このあたりに留めておきましょう。さすがに、もう十分だと思いますし……ふふふ』


 勝ち誇ったような不気味な笑い声がしたかと思うと、周囲の景色がいきなり暗転した。

 俺は深く暗いところをどこまでも落ちていくような、不気味な感覚に襲われてしまう。今話していたあいつが……誰だか思い出せないがとにかくあいつが、俺を突き放したのだとはっきりわかった。

 自分でも意識しないうちに、俺は暗黒の世界で叫んでいた。


「待ってくれ、返してくれっ。俺の大事な――」


 ……しかし、何を返して欲しいのか、自分でもそれが一向に思い出せず、俺はそのまま気を失った。



今連載しているのもそろそろ終わりが近いので、早めにこちらの続編序章を実験的にアップしておきます。

今考えているのは、もしもレージ達が俺魔世界へ転移せず、別の運命を辿っていたら? 

というIF物の戦記ですね。


というわけで、本作は俺魔と特に関係ありません。

それでも構わない方は、どうかおつきあいください。

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