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サクラの勝手な推理

 人間というのは随分と厚かましいもので、あの謎の封鎖現象から一ヶ月も過ぎると、そろそろニュースの論調も落ち着いてきた。


 まあ、そもそもユメ達があれだけサンシャイン界隈をぐちゃぐちゃにした割には、破壊以外になんの証拠も残ってなかったからな。

 いや、敵味方それぞれ、死体の数は山ほどあったのだが……しかし、どういう手を使ったのか謎だが、ユメが全部片付けてしまったのだ。

 本当に目の前でぱっと消しちまいやんの。


「バックアップが強力だもん」


 などと、俺を横目で見て謎のセリフを吐いてたが……いやいや、俺は全然関係ないし。

 とにかく、未だにネットでは相も変わらず推理が続いているが、結局わずか数日足らずの封鎖事件は、謎のままに終わりそうだ。

 なにより、生き残ったハンター共も、慌てふためいて逃げちまったからな。


 やはり、主力だったブレイブハートが全滅したのは大きかったらしい。

 俺は知らないが、後で調べたサクラによると、「みんな元の世界に帰還しちゃった」のだと。


 それ聞いて俺は、やっぱりあいつら、正義の味方じゃないと思ったね。

 本物の正義の味方なら、最後まで諦めないからな。






「……で、何の用だよ」


 珍しく半ドンで工場から帰宅した俺は、ユメの相手をする前にサクラに呼ばれ、マンションの屋上に来ていた。

 セーラー服の女の子に単独で呼び出しかけられるといえば、もう想像することは一つなんだが……もちろん、この場合は違う。

 こいつはただの中坊じゃなく、いわゆる異世界の勇者ブレイブハートだし。


「後で部屋へ戻ったらあの子からも言われると思うけど、わたし達、今度は異世界のフランバール大陸へ遠征することになると思う……というより、この場合は戻るってことかな。だって、みんな元はあそこの生まれだものね」


「な、なんだってぇええええ」

 お約束で悪いが、俺はきっちり驚いた。

 いや、驚愕したよ、マジで。

「い、いつの間にそんな決定がっ。俺は聞いてないぞ!」


「……聞いてないもなにも、元々あの子だって、こちらへは一時的な避難で来ていたわけだし、誰が言うともなくそうするのは当然でしょ。もっともあの子は、『パパがいかないならユメもいかなーい』なんて言ってるけど」

「そ、そうか……」

 それを聞いて安心しちゃいかんのだろうが、俺はやっぱりほっとしてしまった。

 いやだって、「なにがあろうと帰ります」とか、そんなかぐや姫みたいなこと言われたら哀しいじゃないか。


「なんで悩むかな?」


 サクラは屋上の手すりにもたれ、長い髪をなびかせる。

 ……どうでもいいけど、おまえの制服、スカート短すぎないか?


「レージも一緒に来ればいいじゃない? あの子の保護者として……実際、そうなってるんだから」

「い、いや……俺からしたら、それは既に当確が約束された火星移住計画に応募するようなもんで、なかなか勇気いるんだけど」

 情けないが、おどおどと言ってみる。

 言葉の違いは魔法で何とかなるらしいが、そんな右も左もわからんトコへ行くのもちょっと。




「右も左もねぇ……本当にそうかしら?」


 サクラは、なぜかしんねりと俺を見た。

「なぜかもう外見の変化が消えちゃってるけど、レージはあの時、間違いなく白銀の髪になってたわよ」

「ええっ」

 俺は慌てて自分の頭をぺたぺた触った。

 いや、手触りはいつも通りだし、だいたい俺、あの時に帰宅した後、ちゃんと鏡も見たけど。

 まるでいつも通りだったね。


「嘘だろー……だって、変化したのなら、なんで今は黒髪に戻るんだよ」

「さあ? 多分、それをレージが望んだからじゃない?」


 なんだ、その謎かけみたいなセリフ。

 戸惑う俺に、サクラはさらに畳みかける。

「実はわたし、レージが飲み込んだダークスフィアが入ってた金属ケース、後で調べてみたのよ」

「お、おまえなぁ」

 俺の苦情を無視し、サクラはいやに低い声で言う。


「あのケースには、ダークスフィア以外に、古い本もたくさん入ってた……あれって、全部かつてのあの子の信者が書いたものらしいわ。それも、かなり最初期の信者達ね。お陰で、太古の文字が使われてて読めなかったけど、一緒にあったヘッドフォンみたいな器具が一種の翻訳装置になってて、それを着けてようやく読めた」

「本当かっ。それは知らんかった!」

 俺は意表をつかれて唸ったが、これまた無視された。


「そして、私はアレを読んだ……読める部分は全部ね。その結果、面白いことがわかったわ。元々、邪神と呼ばれていたあの子――闇の種族を統べるヴァレンティーヌには、ちゃんと父親がいたらしいのね」

「なに……父親だと? 今更そんなこと言われても困るぞ」

 娘を返してもらうっ、などと知らんおっさんから怒鳴り込まれる様を想像し、俺は戦慄した。も、もう俺はユメの父親のつもりだしっ。

 ただ、腹の立つサクラは、今日は徹底的に人のセリフを無視する気らしい。 

 ため息なんかつきくさって、すぐに続けた。


「ハンター達は以前から、暗黒の王女という意味で、あの子を『プリンセス』と呼ぶ時もあった。でも、それって実は、後付けの理由だったの。あの子は本当の意味でプリンセスであって、実際にちゃんと父親がいたのよ……かつて表に出て来たことのない父親が」


「おまえの説明はおかしいぞ」


 わけがわからないながら、さすがに俺は突っ込んだ。


「ユメにオヤジがいたなら、どうしてユメが危ない時に出てこなかったんだ。前の世界じゃ、ユメはブレイブハートどもに倒されたって話じゃないか」


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