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引き取った女の子は邪神の転生体でした  作者: 遠野空
第一章 新米パパの憂鬱
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早くも返すことに?


「ユメは良い子だなぁ」


 感動して抱き上げたら、なぜかバスタオルが濡れていた。

 ニコニコして俺を見る無垢な瞳を前になんだが、思わず脱力した。「早熟でしゃべり出すのはやっ」とか思ったのに、シモの方はまだ面倒がいるのな。 


 そこが一番、一人で何とかしてほしい部分なんだが!





 ぶつぶつ言いながらも、俺はまたユメを浴室に連れて行き、温水でよく洗ってから、今度は紙オムツをあてがってやった。

 昨晩のうちに買っておいたんだが、イマイチ付け方がわからなかったのだな。だが、毎回お漏らしされてはたまらんので、やはりまだ必要ってことだろう。


「これでよし」

 何とか装着し終わり、また新しいバスタオルを服代わりに巻いてやる。

 あと、「みるく、みるくぅ~」とうるさいので、それもまた粉ミルクで適温を作り、哺乳瓶に補充してやった。それにしてもこいつ、どんだけ飲むのかと!


「そういや、この調子で大きくなるなら、洋服もいるよなぁ」

 哺乳瓶をちゅーちゅー吸うのに夢中なユメのお陰で、俺はようやく解放され、ユメの隣に座った。

 金属製のケースを引き寄せ、開ける方法を探したが……これがホント、全然見つからない! 継ぎ目みたいなのがあるんで、開くはずなんだが、方法がわからん。

 ケースの腹に書かれた赤い●が何かの鍵かと思うだが、触ってもぴくりとも反応しやがらない。


「やっぱり、バールでこじ開けるしかないかねぇ」

「ぱぁぱ、みるくぅ~」

「え、もう飲んだのか!」

 驚いて横を見ると、なんとユメは、俺が自分用に買って開いておいたカラムーチョの袋から勝手にスナックを引き出し、しこたま自分の口に詰め込んでいた。


「おいひーおいひー……みるくぅ~」


 頬をリスみたいに膨らませ、切ない顔で訴える。

 美味いけど、辛いからミルクがいる――そう言いたいのかもしれない。

「ば、馬鹿っ。そんな辛いモンを赤ちゃんが食うなよっ」

 慌てて水道の水を汲んできて、飲ませてやった。

「んくんくんく……ぷはー……きゃははっ」

 口の周りをカラムーチョのカスだらけにして、笑ってやがる。


「そもそも、おまえもう噛めるのか! ちょい口を開けてみ」

 心配になった俺が指示すると、「あ~~っ」と可愛い声を出して、ちゃんと開けてくれた。

 おお、会話が成立してる――気がするっ。

 しかし……歯の方はようやく生えてきた感じ? いや、それでも昨晩の「今生まれました!」的な状態から見りゃ、全然凄い成長ぶりだが。


「いいか、食べてもいいけど、いっぺんに頬張るな。一切れ一切れ、ゆっくり噛んで柔らかくして飲み下せ。いいな?」

「ふぁーい」

 真剣に頷いたけど、わかってんのかね、こいつ。

 しかし、観察してると、一応言いつけ通り、今度は一切れずつ手に取っている。

 言うこと聞くなら、シモの世話から卒業も早いか?

 俺は期待しつつ、またケースに戻った。……つっても、もはや打つ手もないな、これ。


「よし、バールを――あ、こらっ」

 立とうとした時、ユメがハイハイでケースに近寄り、例によってニコニコしながら、バンバンッとケースを平手で叩き出した。

 何か美味いものでも入ってると思ったのかもしれない。

「やめろ、ケースにカラムーチョの油汚れが」


 言いかけたその時、唐突にケースが開いた。バクッとか金属音がして。

 思わず、後ろに倒れそうになったぞ。

「おおっ、驚いた! え、おまえが鍵だったのか?」

「ユ~メ?」

 ユメがきょとんと自分を指差し、それからケースを見下ろした。


「えいっ」

 あろうことか、気合い一発、ちっちゃな足でバンッとケースを蹴飛ばし、また閉めてしまう。


「し、閉めてどうする馬鹿! もう一度開けろ、頼む」


 俺は焦って、今度は自分からユメの手を取り、ケースのあちこちに触れてみる。そのうち、赤丸の部分に手が当たると、またパカッと開いた。

「なるほど、こういう開け方ね」

 無駄に感心しちまった。

 原理すらわからんが、ユメしか開けられないわけか。


「いろいろと、やう゛ぁい!」


 ユメがびしっと俺に親指を立てて見せる。物凄く嬉しそうである。

 妙なこと覚えやがって。

「……いや、ユメはもういいから、カラムーチョと水で楽しくやっててくれ」

 俺はユメに背を向け、中身を検討し始めた。






 中身は割とぎっしり詰まっていたが、その大半は古臭い書物だった。それと、ヘッドフォンみたいな謎の器具と、分厚い封筒。

 まずはその封筒を開き、何気なく中身を見る。


「げっ」


 万札の束が見えて、仰け反りそうになった。こんな大金見たことないけど……厚みからして、だいたい百万くらいはあるか? もちろん、異世界の見たことない金じゃなくて、日本のお金である。

 それと、汚い字で書かれた地図と手紙が一通。


 内容はごく簡単で、「ここへこの子を届けてください」とあり、その下に地図だ。どうもさっき行った駅が起点になってるようで、このアパートからも遠くない。

 ということは、この金もそこへ届けろってことだろうか。


「ううむ」

 正直言うと、俺はいきなり虚脱感に襲われた。

 実はなんだかんだ言って、ユメの世話は嫌じゃなかったのだな、俺。間抜けなことに今気付いたけど。


 けど、この手紙の指示に従うなら、もうユメはその見知らぬ誰かに返さなきゃいけないんだろうか。


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