気になる外見
その要領でユメはレイモンとやらも癒やし、さらに離れた場所に倒れてたサクラをも治してしまった。
ていうか、こいつもやられてたのかっ。
「この子もまあ……ついでだし」
あまり気が進まない様子だったが、それでも息があるのを見て、ユメはサクラも助けてやってた。
しかしサクラは一段とすげー傷だったな。俯せた身体の脇に、腸がはみ出てるのが見えてたんだぜぇ?
お陰で、危うく吐きそうになったじゃないか。
とにかくそんな調子で、まだ息があった者はことごとく起き上がることができた。
……だけど無論、もう亡くなってしまったヤツはどうにもならないらしい。
くそっ。結局はほとんど助かってないじゃないか。
それに……当然、いつまでも安泰ではいられなかった。
まずはアデリーヌが、そしてあの冷たい目つきをした女が、全身を黄金色に輝かせて起き上がってきたのだ。なんだあれ、魔力の発現とかそんなのか?
「だいじょうぶだよ、パパ。もうユメは無敵だから」
俺の可愛いユメが、腰の引けた俺にそっと囁いた。
「ちょっと待って!」
和んでいるところへ、いきなりサクラが水を差す。
「レージ……あんた今、自分がどうなってるかわかってる?」
穴が開きそうな目で俺を眺め、そんなことを言う。
どうでもいいけど、なんて目で俺を見るんだ、おまえは。まるで、新宿駅前でぶっ立つモアイ像を見たような顔してんぞ。
口が半開きだし、いつもカリカリしてるこいつっぽくない。
いや……それを言うなら、レモンだかレイモンだかと、ヒューネルのクソガキも同じなんだけど。
「じ、自分で自分が見えるわけないだろ。おまえ、腸がはみ出たせいで、まだショックから抜けてないのか? ちゃんと傷塞がってるか?」
俺は呆れて指摘する。
「あのね……じゃあ、自分で見てみなさいよ」
サクラは、スカートのポケットからキティちゃん柄のコンパクトミラーを取り出し、折り畳んだそれを開けようとする。
なんだよ、そのリアクション。なにか? ダークスフィアを丸呑みしたせいで、俺の外見、おかしいのか? よもや、金髪で逆立った髪の毛とかになってんのか!? それは嫌だぞ、似合わないからっ。
ドキドキしたが、あいにく絶妙のタイミングでユメが横から手を出した。
「――ていっ」
底抜けに明るい声でサクラの手をぶっ叩き、路上に転がったコンパクトミラーは粉々になっちまった。
「こらこらっ」
「なにすんのようっ」
俺が注意するより先に、サクラがぷりぷりしてユメを睨む。
「これ、お小遣い貯めて買った高いヤツなのにっ」
「よけいなことしちゃだめっ」
ユメは悪びれずに言い返す。
「どんな道を選ぼうと、それがパパの決断なんだからっ」
「え、それどういう意味?」
俺の質問には答えず、ユメがきっと前を見る。
……もはや、女戦士共二人がすぐそばまで来ていた。確かにこりゃ、質問してる場合じゃないな。
「まさか……ヴァレンティーヌ、まさかその男は――」
「ユメをヴァレンティーヌと呼ぶな、ミカエル。おまえ達はいつも、呼び名で間違いを犯すわ」
身も蓋もなく、ユメが遮る。
「今はもうユメだし……それに……ふふふ……それにね」
ちらっと俺を見て、ユメが微笑む。
「今はパパのアドマイラー(賛美者)でもあるわ」
なんかよくわからんことを言ってたが、驚いて声を上げたのは、レモン男だけだ。俺はそれより、敵の方が気になってそっち見てたし。
そうか、やっぱりあの冷たい顔のヤツがミカエルか。
俺は歯軋りして睨んでやったが、どっちかというと向こうの方が俺を熱烈注目中だった。やっぱり逆立った金髪頭とかになってんのか、俺っ。
「さあ、決着をつけましょう、おまえ達。もはや、どんな奇跡が起こっても、ユメに敗北はなくなったわ! うふふ……うふふふふっ……あーはっはっはっ」
笑みは途中から哄笑のように大きくなり、ついには肩を震わせてユメが笑出す。
今や全身から真紅の光があふれ出し、同時に背中から漆黒の翼まで広がっていく。
「戻って、ダークスター!」
ユメの声と同時に、広げた両手には無数の星が瞬くような黒い大剣がそれぞれ握られた。なんという、神々しさ。
いや、今は本当に全能の少女神に見えるぞ、ユメ。ゴシックドレスがバシッと決まっててむちゃくちゃ綺麗だし、白銀の髪は光を放ってうねうねと周囲に舞ってるし。
とても人間に見えん……いや、実際に違うんだろうけど。
準備が整うと、ユメは自信満々の笑みをたたえ、二人のブレイブハートを――いや、その後ろのハンター共をも睨んだ。
「さあ始めましょうか、おまえ達の敗北の序曲を。いずれ、元の世界でも同じことが起きるでしょうね」
「き、きたぁああああああっ!」
……いや、なんで俺より先におまえが叫ぶんだ、サクラ。
どんな恨みが元の世界にあるのか知らんが、そのガッツポーズもやめろ。俺としては複雑な気分なんだよ。




