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置き去り


 翌朝、それぞれ起き出してモソモソ朝食を食べた後、もう一度テレビを点けてみたが、事態はさらに悪化していた。


 まだ都内に残って放送を続けている放送局は、なんとテレビ東京オンリーだった。

 連中は、どうも警察官やら放送局を狙って無差別攻撃を仕掛けているらしく、テレビ画面の向こうでは、炎上する某大手テレビ局が映っていた。

 なんでテレビ東京だけ無事なのか謎だが……あるいは、この有様を見せしめ的にまだ都内に居残っている連中に見せるため、一社だけ残したのかもしれない。


 そらまあ、殺された警官の死体や破壊されたテレビ局なんかニュースで流された日にゃ、都内で何が何でも粘ろうって奴も少なくなるだろうな。

 ちなみに、この謎の事態は在日米軍も刺激したらしく、昨晩だけで二件ほど、昼間と同じ事故が起こってるらしい。


 つまり、自衛隊は早々に諦めたが、米軍基地から飛んだ戦闘機なんかが、懲りずに結界に突入しようとして事故っているのだ。

 ……まあ、結界なんて四次元的な現象は、なかなか信じられんのも無理ないが、さすがに今後は空から入ろうとする試みは減るかも。


 どうでもいいが、このハンターって連中、全然見境がないな。

 どこが正義の味方やねんと言いたくなるぞ、くそっ。





  

 ――などと、例によって用務員室で口を半開きでテレビを眺めていると、いきなり膝の上でユメが叫んだ。

「パパぁ、あいつら、あそこにいるっ」


「えっ」

「あ、ホント!」

「厚かましい連中だなー」


 俺以下、同じくテレビを見ていたサクラとフューネルが、口々に言う。

 そう、テレビの中で中継映像がまた変わり、見覚えのある馬鹿高いビルが映っているのだ。

 そこの入り口で中年男のリポーター(人出不足らしい)が、半分逃げ腰で実況していた。


『か、かかか関係者の方の話を総合しますと、どうやらハンターと呼ばれる方達は、全員がこのサンシャイン60に集まっているらしく、ここをきょきょ、拠点にですね、都内のあちこちに出向いているようです。ただ、どういう理由があってこのような無茶な……え~、境界を張ったのか、我々にはまるで教えてくれません』


 このスーツのおっさんは、普段は現場の人間じゃないらしく、説明がたどたどしいが。

 まあ、言わんとすることはわかる。

 嘘じゃない証拠に、このおっさんが説明する間も、その後ろで帯剣した野郎が数名ほど、連れだってこの巨大なビルの中に消えていくところだった。


『い、今、サンシャイン60の中は、一般市民やビル関係者などは全て追い出され、かか、彼らの拠点のようになっています、はい』


 ……いや、なっていますはいって。

 俺は顔をしかめて画面を睨んだ。なんか説明しなくてもいいことまで言ってくれたが、これって怪しくないか。


 なんで奴らが、わざわざ「ここが自分達の拠点ですよ」とテレビの連中に教える必要があるんだよ。

 やりにくくなるだけだろ。

 ――と常識人の俺は思ったんだが、クソガキのヒューネルがあっさり言った。




「なんだ、探す必要なかったな。あそこが拠点じゃないか」

 呆れた俺に、サクラまでが大きく頷く。

「手間が省けたわね!」

「いやいやいやっ」

 俺は慌てて割り込んだ。


「あんなの、ゴキブリホイホイと同じだろ? どう見ても罠だって」


 二人揃って俺を見返しやがったので、重ねて言った。

「多分、行ったら向こうが手ぐすね引いて待ってるぞ」





「……だとしても、決着つけるしかないのよ、今よ」


 サクラがやたら冷静な声で言った。

 ヒューネルとやらも肩をすくめて言う。

「そういうこと。どうせこのままじゃじり貧だからね。……まあ、こっちには他にレイモン達もいるし、何とかなるさ」


「しかし、戦力差がだな――」

「パパ、心配しないでぇ」


 んくんくんくっと、一気にコップの牛乳を飲み干したユメが、俺を見上げて言った。「ユメががんばって片付けちゃう」

「ええっ、おまえも行くのかっ」

 考えてみりゃ当たり前の話だったが、それでも俺は声に出してしまった。

 しかし……そりゃヒューネルやサクラ達だけじゃ、無理だろうな。

 なんだかんだいって、ユメがこの中じゃ最強っぽいし。




「なら、早速行きますか」


 コーデュロイのパンツとカジュアルシャツという格好のヒューネルが、いきなりジャケットを手に立ち上がった。

「下で待機してるレイモン達と合流して、サンシャイン60に突入だね」

「加勢するわっ」

 セーラー服のサクラも、その場で刀を手に立ち上がる。


 赤鞘の刀をスカートのほっそいベルトに刺し、「どっちでもいいから、わたしも運んでよ」などと早速、頼んでいた。

「いや、ちょっと!」

 慌てた俺が立ち上がろうとした途端、身体に電流が走った――気がした。

 しかも、全く身体が動かない!

 立ち上がった俺の額にユメが小さな手で触れた途端、いきなりそうなったのだ。


「パパはここで待っててね……」


 ユメが囁き、俺に口付けした。そう、マジで口付けしやがった!

 だが俺は焦るどころか、身動きすることも声を出すこともできずに、座り込んだままだ。その間にヒューネルが「迷惑かけて悪かったよ」と小さく低頭し、部屋を出て行った。


 サクラは俺の肩に左手を置き、かつて聞いたこともない優しい声で「わたしのこと、忘れないでね」と耳元で呟き、同じく視界から消えた。

 待てよ待てよ待てよっ。俺も連れていけよ、おいっ。


 そう絶叫したかったが、あいにく声すら出ない。ユメの力は相変わらず完璧だった。

 最後に、小さな身体が背中から抱きつくのがわかった。


「……パパ、あいしてる!」


 そのまま、最後まで残っていたユメの気配も消えてしまい、俺は一人で用務員室に取り残された。



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