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方針決定



 ――かくして、俺とユメはまたマンションを出て、古びた校舎に潜むこととなった。



 廃校になった某中学校は、小さな街を見下ろすような丘の上にあり、今時、木造である。

 実は、二代前くらいの都知事が「木造校舎自体が珍しく、歴史も古いのだから、記念館として残してはどうか?」と提案したため、取っ払って新しく作り直す案が回避されてしまい、新築校舎は別の場所に建ってしまった。


 しかし、問題の知事も汚職で退職となり、哀れこの校舎は宙ぶらりんのまま、まだ丘の上に建っているわけだ。

 場所は、ハンター共が境界を引いたの北の外れ辺りにあるのだが……それはこの際、どうでもいい。


 ここに退避したのは何も永住するためではなく、あくまでも逆襲に出るため、一時的に時間を稼ぐためだからだ。




 あいにく、到着するなりユメが昼寝してしまったが(こういうところはまだお子様である)、お腹を空かせた夜になって起き出したので、食事をした後、作戦会議を開くことにした。

 場所は、なぜか校舎の地下にある、用務員室である。

 昔はここで、昼夜を問わず用務員がいたようなのだな。ちゃんと風呂もある。


 学校に地下があるだけでも珍しいが、今回のような場合には大いに有り難い。なにしろ、明かりを点けても外に漏れないからだ。

 幸い、このボロ校舎に警報装置などはないので、裏口の鍵を破壊して侵入した後は楽だった。配電盤でブレーカーを上げれば、後は電気も使い放題だったのだ。


 まあ、いずれは電気使用を怪しんだ誰かが見に来るだろうが、今のところ、都内は俺達に構っているような状態じゃない。




 用務員室は十畳ほどの畳敷きだったが、布団を外したコタツがあったので、そこに関係者が集まった。


 ――つまり、俺とユメとサクラに……ユメの配下の代表とかで、俺を殺しそうになったあの若造ヒューネルというそうだまで呼ばれて来ていた。


「どうせダークピラーを呼ぶなら、中心人物のアドマイラーって人を呼んだら?」

 サクラがユメに尋ねたが、俺の膝の上でユメは機嫌悪そうに首を振った。


「あの子はアドマイラーじゃないの! 元々アドマイラーというのは敵がそう呼び始めた闇のぐんぜーのよーしょく(要職のことか?)で、代理しれいかんみたいな役。そのせいか、レイモンが『これは自分のことだっ』なんて思っちゃったの。でもあの子はただのレイモン! 他の名前はかんけいないのっ」


 ……力説してくれたが、サクラも俺も戸惑うばかりだった。

 俺に言わせれば、レモンだろうとアドマイラーだろうと、この際、戦力になってくれたらなんでもいいんだ。

 ……あ、レモンじゃなくてレイモンか。


「で、そのレイモンは呼ばない?」


 気配りを忘れない俺は、一応そいつのために訊いてやった。

「かんとく不行き届きで、きんしんなの」

 ユメはおごそかに言った。

 なぜかヒューネルがくすっと笑ったが、なんでおまえは他人事みたいに笑ってんだよ、死ねっ。


 むしろ、このクソガキこそ逆さ吊りにでもして、耳から血を流すまで謹慎させとくべきじゃないのか!

 

 などと、俺の方こそ頭に血が上りそうになったが、何とか我慢した。

 戦う前に仲間割れはまずい。 

 ちなみに、今コタツの上には、俺がマンションから持ち出した小さな携帯テレビが置かれている。





 話し合いの前に、俺はまずリモコンでニュースに合わせた。


『――ご覧のように、この謎の境界の特性が判明した途端、ぞくぞくと都内から脱出する人達が後を絶ちません』


「い、いきなりかいっ」

 自分でチャンネル合わせておいてなんだが、張り切ったリポーターの声に、俺は顔をしかめる。


「しっ」 

 サクラが黙るように合図したので、やむなく口を噤みはしたが。

 画面には、都内から脱出すべく、マイカーが長蛇の列を作る中央環状線が映っている。普通の人間が結界から出る分には問題ないってことで、みんな避難することにしたらしい。面白がって残るヤツもいるんだろうが、意外にもそういうのは少数派みたいだ。 


 ちょっと不思議だったが、理由はすぐにわかった。





『謎の境界ができてしまった都内では、奇妙な集団が都内を荒らし回っているという情報も入っています。抗議する者に対しては容赦なく剣――え、これ本当!?』


 手元の紙を読んでいたリポーターが驚き、誰かに訊いていた。


『し、失礼しました。……どうやら剣や弓、それに誰も見たことのない光学的な武器で手当たり次第に人を襲うらしく、今や警察も地域住民に避難を呼びかけて』


 そこまで聞き、俺は黙ってテレビを消した。

 だいたいの事情がわかったし、むかつくからもういいや。


「さて、この調子だと結界内の人間はどんどん少なくなる……脱出できない以上、もはや逃げるにしても限界がある。そこで逆襲するしかないわけだが――」




「ついに!! ようやくねっ」


 サクラが拳を固めてガッツポーズを取る。

 なんつー戦闘的な女だ、しかし。おまけにこいつのセーラー服を見ると、俺は隠れ家で見たピンクのパンティーを思い出してなぜか焦るっ。

 あの下着、今も穿いてるのかなとか、考えてしまうわけだ。


「そ、そこでだ」


 一人であわあわしたが、俺は何とか先を続けた。


「奴らだって、それなりの拠点があるだろ? まずは戦力が集中してそうな、そういう本拠を見つけよう。都内から人が流出している今なら、目立ってる奴らの本拠くらい、探し当てられるはずだ」


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