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引き取った女の子は邪神の転生体でした  作者: 遠野空
第五章 ハンターどもが動く!
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撤退後の逆襲(予定)


「に、逃げられなくなったって、結界の中に閉じ込められたってことか?」

「そういうことね。ただ、レージやわたしは問題なく外に出られるはずだけど」

「え、それってどういうことだ?」

 まだテレビではリポーターが喚いていたが、俺はいたく関心を引かれ、サクラを見た。


「つまり……この見えない結界は、闇の眷属のみに反応するのよ。普通の人間やあいつらが出るには問題ないけど、その子や配下の者達は出られない」


 俺の胸で居眠りしているユメを見やり、サクラはしれっと言う。


「ただし、逆に外から入るのは、誰であろうと無理。自衛隊機だって、入れずに爆発しちゃったでしょ? 一度結界の外に出たら最後、今度は誰であろうと、もう二度と結界内に入れないの」


「な、なんつー都合のいい結界だ」

 俺は無駄に歯ぎしりして、窓から外を眺める。

 ここから見る限りでは周囲は平穏だが……もちろん、その平穏は長く続かないだろうな。




「そういえば、レージのバイト先にハンターが押し寄せてきたのよね?」

 サクラがふと思い出したように言う。

「そうさ。おまえだって、さっきそう言ったじゃないか」

「じゃなくて――」

 サクラは眉をひそめ、じっと俺を見た。


「……その工場とやらに、レージの履歴書とか残ってる?」


「そりゃおまえ、当然――て、ああっ」

 一瞬で血の気が引き、俺はサクラを見た。

 当然、履歴書は残ってる! 面接したんだから。


 普通なら、個人情報だからあいつらは見られない――と言いたいところだが、ヤツらが俺の人権とか会社の都合とかを考えるとは、とても思えなかった。

 なにしろ、こっちの人間なんかゴミ扱いしてそうだからな、あいつらっ。


「や、ヤバいっ」

 俺は焦りまくって左右を見ると、とりあえず奥の部屋に飛び込み、クローゼットに入れておいた金属ケースをひっ掴んだ。

 あと、財布もキャッシュカードも全部ポケットに入っているから、最低限、これで逃げられる。


「逃げるのねっ?」


 サクラが目を見張って訊き、当然俺も何度も頷いた。

「ああ、今は逃げるっ。とりあえず、一度逃げて考える時間が欲しい。もういつ追いついてくるかわからんし」

「わかったわっ。わたしも荷物取ってくるついでに、あいつらを呼んでくる。その間に、プリンセスを起こして!」


「わかった――て、あいつらって誰だ?」

 思わず問い返したが、もうサクラは玄関から走り出た後だった。

 ええい、もうなんでもいい。

 とにかく今は安全な場所に避難しないと。

「ユメ、ユメっ。起きてくれ!」

 抱き上げたユメの身体を軽く揺すると、ふわぁああと可愛いあくびをして、ユメがぱっちりと目を開けた。


「……おやつのじかん?」

「いやいやいやっ。まだ追っ手がくるから、ひとまず退避する。その後で――」

 言いかけ、俺はしばし考えた。

 しかし、もう先に教えておいた方がいいだろう……もはや、ずっと逃げるわけにはいかないことを。


「どこかで潜んでから、今度は逆襲に転じようと思うんだ」


 宣言した途端に、ユメの瞳がめちゃくちゃ輝いた。

 透き通るような青い瞳に、闘志という名の星が無数に散ったように見えたほどだ。





「わかった! パパが決心するなら、ユメは全力でやっちゃう」


「いやいやっ。だから、今はまず逃げるんだよ。反撃は後な。ひとまず、そうだな――あそこへ」

 言いかけると、ユメが俺の頬に自分の頬を当てた。

「だいじょうぶ、パパがそうぞうしてくれたら、ユメはちゃんとそこまで行けるの」


「ええっ。おまえやっぱり、俺の考えとか読めるのかっ」


「……いつもはのぞかないよぅ。ひつような時だけだもん」 

 耳元で悪戯っぽい声で囁くユメである。


「でもね……パパがユメにどきどきしてくれてることは、ちょっと感じていたの。ごめんなさぁい」


 チュッと頬にキスされた。

 な、なんという小悪魔……いや、この表現はユメの場合、シャレにならんが。


 普通なら「うがああああっ」と床で転がり回るところだが、そんな可愛く謝られると、何も言えんじゃないか。




「ま、まあいいよ、今はいい。それより、じゃあ俺の思い浮かべる場所に頼む。廃校になった中学校だ」

 俺が今いるマンションからそこまでの道筋を脳裏に思い浮かべると、赤ちゃん時代のユメがそうだったように、くっつけた頬と頬が熱くなってきた。

 しばらくしてユメの頬が離れ、ぱっと俺を見る。

「うん、わかった! もう行けるからっ」


「準備できた!? あいつら、迫ってくるわよっ」


 そこでサクラが部屋に飛び込んできて、俺は飛び上がりそうになった。

「も、もう来たのかよっ」

「まだ見えないけど、わたしはハンターの気配を感じるもの」


「それより、パパ。こいつも連れていくのぉ?」


 ユメが珍しく顔をしかめ、嫌そうにサクラを見る。

 だが、俺は断固として頷いた。

「悪いが、頼む。サクラには世話になったし、こうなったら共闘する必要もあるんだ」


「そう、わかってるじゃない!」


 サクラがやたら嬉しそうに笑ったが、俺は笑い返すどころではなかった。

 今後のことを考え、暗澹あんたんとしていたからだ。


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