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引き取った女の子は邪神の転生体でした  作者: 遠野空
第五章 ハンターどもが動く!
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図星を指されました

「ど、どういうつもりですのっ」


 金髪を振り乱して喚いたが、しかし近寄ってくる様子はない。

 それよりも、ハンカチでみみっちい染みをこするのに忙しいらしい。今にも卒倒しそうな様子である。


 よしよしっ。

 内心でガッツポーズを取った俺だが……しかし、周りを囲む野次馬までどん引きの顔でずざざっと後退したのは、ちょっと傷ついたな、くそっ。

 俺だって、こんな手は使いたくないんだよっ。


 不満たらたらながら、俺はこの隙にさっとエレベーターのボタンを押し、ケージのドアを開けた。




「あ、まさか貴方っ――」

 さすがにびびてたアデリーヌが、慌てて駆けよろうとする。

 しかし、俺は素早くまた残飯容器を持ち上げ、振り回した。


「食らええっ、残飯クラッシュ!」


 あらん限りの声で喚くと、女の方へ中身を全力でぶちまけた。

 いやぁ、中身はほとんど液体化した残飯なんで、これがまた思いのほかよく飛び、躍り込もうとしたアデリーヌはおろか、野次馬どもにまで飛沫がかかったね!


「ひ、ひいっ。いやああああああああああっ」


「きゃあーーーっ」

「うわっ、汚ねえっ」

「死ねよっ」


 アデリーヌを筆頭に、悲鳴と怒声の大合唱である。

 しかもあの女、素早く逃げたはずなのに、後ろの野次馬が鈍くさかったせいで逃げ切れず、だいぶ頭から浴びたし!


 あまりに気の毒だったんで、若造をエレベーターに引きずり込む際に、ちゃんと叫んでおいた。


「あ、ションベンの話は嘘だからなっ。ただの残飯だし、死なないって」

 叫んだ後、すぐさまケージを閉めた。


 あいにく女は床で喚きながら転げ回ってて、俺の声が聞こえてなかったようだが。

 あんなことしたら、余計に体中が残飯だらけになるのに。






 最上階の五階のボタンを押し、俺はようやく息を吐く。


「おい、生きてるか、あんた?」 


 ケージの床にへたり込んだ若造に、話しかけた。

「なあ、あんたはユメの仲間なんだよな」

 答えてくれないかと思ったが、ちゃんと返事はあった。

 訝しそうな、いかにも「こいつ馬鹿?」と言わんばかりの顔で俺を見上げて。


「仲間じゃないよ……僕は臣下だ」


「なんでもいいよ、関係者なら。最上階まで連れていってやるから、あとは自分で飛んで逃げてくれ。確か、空を飛べるはずだろ?」

「なんで助ける?」

 人の質問を無視して、若造が逆に問い返す。

 しかし俺は相手にせず、若造に手を貸して無理やり引き起こした。


「時間ないんだから、世話を焼かせるな。ただでさえ、俺の生存率がこれで下がったんだからな。逃げ遅れたら、化けて出てやる」

 ぶつぶつボヤきつつ、そいつを引きずるようにして廊下奥の非常口まで急行する。ドアを開け、二人して非常階段まで出た。


「俺がしてやれるのは、ここまでだ。飛べるなら、後は自分で逃げてくれ」


 俺は無情に告げる。

 自慢じゃないが、俺だってとっとと逃げないとヤバいのだ。

 しかも、こいつと違って飛べるわけでもないし。ユメのためなら最後までがんばるのもやぶさかじゃないが、こいつのためにするのはここまでっ。


 きっぱりと階段を下りようとしたのに、この若造は人の足首を掴んで止めやがった。


「なんだよっ。俺は逃げたいんだって! ユメも気になるしっ」

「いいから、質問に答えてくれ。どうして僕を助ける!」

 驚いたことに、既にかなり回復していた若造は、手すりにもたれてゆっくりと立ち上がりながら俺を睨んだ。

 ……このクソガキ、人に助けてもらっといて態度がでかいな、くそっ。


「俺個人としちゃ、醒めた目で人を殺すおまえみたいなヤツは、見殺しにしたかったね」


 むかついたんで、俺は正直に吐き出した。

「だが、ユメの関係者なら、見捨てられないだろっ。理由はそれだけだ、満足か!」

 じゃあなっ、と今度こそ背を向けて非常階段を駆け下りようとしたが、若造は俺の背中にぼそっと言った。


「……あんたのやり方じゃ、あのお方はいつか死ぬよ」


 俺はつんのめるように足を止めてしまった。

 息を詰めて振り返った俺の顔は、多分、血の気が引いていたはずだ。

「その顔だと、自分でも多少は考えてたみたいだね」

 若造はユメと似た、しかしユメよりは薄い色の瞳で、冷静に告げた。


「それなら、理由は言わずともわかるだろ? あのお方はあんたの言うことを聞いて、あくまで戦いを避けようとしているみたいだ。だけど、それで無事に済むはずない。逃げてばかりじゃ、最後には追い詰められるに決まってるじゃん。なのに、このままでいいのかい?」


 くっ……こいつ、俺が普段から気にしてることをずばり指摘しやがって。

 振り向きかけた姿勢で絶句していると、俺達の頭上に陰が差した。途端に、若造が舌打ちをする。


「しまった! あいつはまだ立ち直れないと思ったんだけど」


 嫌な予感がした俺が頭上を仰ぐと、予想通りのものが見えた。

 つまり、染みだらけになったきちゃない戦闘スーツ姿のアデリーヌが空中に静止し、ぎらぎらした目で俺達――というより俺を睨んでいた。


 前髪から、味噌汁らしき液体が滴っていた。


「よくも、このわたくしにいいっ。今度は、おまえを先に殺してやりますわあっ」


 あ、ヤバい……この人、切れてる。




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