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引き取った女の子は邪神の転生体でした  作者: 遠野空
第四章 レージ、いつの間にか大ピンチ
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(幕間ラスト)一人だけ劇画調

 

 闇の眷属らしく上下黒の衣装で決めたヒューネルの言葉に、私を含めた全員が動揺した。それはもう、息を呑む者や身じろぎする者、あるいはヒューネルを睨む者など反応はさまざまだが、冷静を保てた者は一人もいないということだ。


「ゆ、ユメ様のお言葉に公然と逆らうというのかっ」

 私が口走ると、ヒューネルはきっぱりと頷いた。

「ああ、僕は逆らう。こう見えて僕は、命がけであのお方に仕えているつもりだからね」

「どういう意味だ!? それは私以下、全員が同じだぞ」

 私がむっとして述べると、そうだそうだっと皆が大声で同調した。

 だがその勢いに呑まれることなく、ヒューネルは首を振った。


「唯々諾々と命令を受け入れるのは、忠臣にあらず!」


 いきなり、いつになく真面目な顔ではっきり言い切る。

「何を言われても無条件で従うのは、単なるゴマスリとなんら変わらない。主君が間違っていると思った時には、それを正すのが真の忠臣だ」

 こ、こいつはまた、胸を張って言い切ってくれた。

 思わず全員が静まりかえるほどの迫力があった。


 一人だけかっこつけおって!





「考えてもみてくれ。どうして僕達闇の一族が人間達と戦うことになった? 元は、人間どもが互いの種族のために引いた境界線を無視し、僕らの領域へ侵攻してきたからじゃないか。しかも、フランバール世界の人間共は自分達の繁栄とともに慎みを忘れて驕り、傲慢にも境界を犯した自分達のことは忘れ去ってしまった。今やさしたる理由もなく、僕らを根絶しようとしたんだぞっ。これが許せるか! 奴らには、滅ぶだけの罪があるはずだっ」


 いつも物静かなヒューネルが、この時ばかりは普段の冷静さをかなぐり捨てて語っていた。

「今の人間にフランバール世界を治める資格などない! 滅ぶべきは奴らであって、僕達のはずがないっ。これまで非業の死を遂げた配下達のためにも、僕は必ずあのお方に立ち直って頂く!」

「しかし……仮に成功しても、おまえはユメ様に殺されるぞ」


「それでもいい。あのお方が目覚めてくれるなら、無駄死にじゃないさ」

 そう言うと、ヒューネルはいきなりその場で翼を広げた。

「これが今生の別れになるとしたら、後のことは頼んだよ」

「待たぬかっ。一人でいい格好を――ではなく、先走るなヒューネルっ。私も気持ちは同じなのだっ」





「さすがに、あのひょろっとした人……ええと、レージを殺してもらっちゃ困るんだけど」


 いきなり声がかかり、我らは全員が飛び上がりそうになった。

 ブラインドの魔法がかかっている我らの密談を、あっさり看破した奴がいるのかっ。

 一斉にマンションの入り口を振り向くと、そこにはこの世界の学生風の制服を着た、黒髪の女が立っていた。

「……この女、匂う」

 巨漢のベルガンが、鬼も裸足で逃げ出す顔をさらにしかめた。

 それを皮切りに、皆が次々と声を放つ。


「覚えのある気配だぞっ。この世界の人間に見えるが、そうではあるまい」

「よもや、あの憎いハンター共の一味か!?」

「いや、それどころか――」


「ま、毎日ちゃんとお風呂に入ってるし!」

 いきなり女が反論する。

「それに昔はブレイブハートでも、今はあんた達の側よっ」


 ベルガンに「匂う」と言われてから、憤慨して真っ赤になっていた女がやっと言い返した。多分、ベルガンの言った意味を取り違えている気がするが。

「――そ、それより、元ブレイブハートだとっ」

 私が目を剥くと、「それがなによっ」と逆切れされた。

 とんでもない女だ、ブレイブハートのくせに開き直りおったっ。


「とにかくっ。フランバール世界に目に物見せるのは賛成だけど、レージは殺しちゃ駄目よ。そんなことしたら、あの子が――」


 女が熱く語っている途中で、いきなりヒューネルが動いた。

 右手を振り上げ、いきなり奴の得意な魔法攻撃を仕掛けた。

 問答無用だった。


「邪魔はさせないっ。ブリザードアタック!」


「馬鹿者っ!? こんな狭い場所で、本来は軍勢にしかける攻撃魔法などっ」

 慌てた私は焦って我ら全員を対象にマジックシールドをかける。

 寸前で間に合い、我が魔法防御ごと真っ白な氷雪が視界を塞いだ。極低温の氷雪が瞬時に周囲の道路を凍り付かせ、さらにはマンションの入り口に立っていた図太い女を襲う。


 たちまち、周囲に凶悪な風の音が満ちる。

 しかも、暴風と同時に無数の氷の刃が、同時に女に殺到しているのだ。

 まともに受ければ瞬時に氷柱と化した上に、あの刃で全身が穴だらけになること請け合いである。


 ――しかし、さすがに自称ブレイブハート、ぼさっと突っ立ったまま殺られるほど、間抜けではなかったようだ。


 抜く手も見せずに輝く刀を抜くと、その場にさっと屈んで身体の前面に刀身を立てて見せた。

 暴風も凍結も氷の刃も、全てが女の脇を通って逸れてしまった。

 殺到した冷え切った刃の嵐は、結局、マンションの一階部分を穴だらけにして凍結させたのみで終わった。


 見事に防ぎきった女は、すぐさま刀を構え直したが――しかし、ヒューネルはとうに上空へ舞い上がり、黒い閃光のように空を飛び去った後だった。






「くっ」


 刀を手にしたまま、女は凍りついた路上を蹴る。

 怒りが覚めやらぬまま、いきなり私を睨んだ。


「逃がしちゃったじゃない、どうすんのよっ。あんた顔だけなのっ!?」


「な、なんだとうっ。貴様、言うに事欠いて――」

 年甲斐もなく小娘に言い返してしまったが、しかしそんな場合ではない。

 私は苦労して女から目を逸らした。

 このままだとあの男も死ぬだろうが、最後には必ずヒューネルも殺されるっ。


 とんだ展開だぞ、くそっ!



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