表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
引き取った女の子は邪神の転生体でした  作者: 遠野空
第一章 新米パパの憂鬱
3/140

危ない感触


「ど、どうしたどうした、なにが気に入らない?」


 不器用な手つきであやしてみたが、全然泣き止まない。しかし、しばらくして俺は否応なく腑に落ちた。

 なぜなら抱いていた手が、どっと濡れてきたからだ。

 こ、この生温かいアレは……まさか!?


「うわ、やってくれたよ!」


 慌てて狭い浴室に移動し、赤ちゃんの布切れを剥ぎ取る。

 旧式シャワーをひねり、温水になるのを待って、赤ちゃんの全身を洗い流してやった。

 ――途中でわかったが、元々この赤ちゃん、体中が微妙にべとべとして汚れていたようだ。

 ついでなので、それもシャワーの湯で洗い流してやる。


 その間、むちゃくちゃに泣き喚いていたが、シャワーを終えて浴室が出る頃には、さすがに大人しくなっていた。




「全くなぁ、俺の上着までおまえの小で濡れたやん。羞恥プレイかよ」

 慌てて脱いだセーターを、部屋の隅の藤籠(洗濯物入れ)に放り込む。

 上半身裸になり、唯一のタンスに歩み寄った。


「バスタオル……バスタオル……あった」

 また振り向いたところで、それが見えた。

 部屋の真ん中に、丸めた紙切れが落ちている。

 急いでいて気付かなかったが、どうも最初に布切れを取った時に、俺が落としたものらしい。つまり、おそらくあの亡くなったじーさんが、赤ちゃんをくるんだ絹布の中に入れておいたのだろう。


 急いで開くと、小さな鍵が落ちた。それを拾い、さらに紙に書いてあった内容を読んでみる。

 駅の名前と番号……汚い字で、きっぱりそれだけしか書いてない。


「なんだこれ、ロッカー番号か?」

 それも気になるが、今一番気になるのは、再び泣き出した赤ちゃんである。今回は全力ではないが、なんだか実に哀しそうな泣き方だった。

「な、泣くなって、なっ。もうトイレも済んだろ」

 適当にあやしつつ、俺はバスタオルを洋服代わりに赤ちゃんに巻いてやる。もう着替えるのもめんどくさいので、俺はそのまま隅に敷きっぱなしの布団に、赤ちゃんを抱えたまま、ごろりと横になった。


 抱き締めたまま(今時)裸電球がぶら下がった、わびしい天井を眺める。

 ……気にはなるが、駅へ観に行くにしても明日だな、明日。


 ちょうどその時、遠くで救急車のサイレンが聞こえた。これはもう、確実にあのじーさんのいる公園だろう。

 ヤバいなぁ、俺。別にやましいところはないはずだが、なんかの間違いで警察にここが突き止められ、捕まったらどうするかね。





『自称フリーターの間宮玲次まみや れいじ、いたいけな赤ちゃんを誘拐!』


 ……とかニュースで流れたりとかな。

 両親はもう天国だからいいが、元級友とかが見たら、物凄い勢いで噂が広がりそうだ。「玲次はやっぱり、危ない奴だった!」みたいに。

 嫌な予感に戦慄していたら、なぜか赤ちゃんが俺の胸の辺りをぺたぺた触っていた。


「こ、今度はなに?」

 訊いても、もちろん返事などない。

 ない代わりに、このとんでもない子は、いきなり人の乳首に唇をつけ、ちゅーちゅー吸い出しやがった!


「うおっ。や、やめてくれ! それは駄目だ、それはヤバいっ、いろんな意味で!」


 正直に言うと、結構気持ちよくて、俺は乳首吸ってくる赤ちゃん抱えて、一人で悶えまくってしまった。


 二秒前まですげー深刻だったのに、なにやってんだかな、もうっ!?




「なんだよ、おまえ。その年で妙な性癖でも――」

 間抜けなことを呟きかけ、俺は顔をしかめた。

 要するにこの子、腹が減ってるのではないかと……つまり、俺をかーちゃんと間違っているのだろう。


「そうか、メシ……ていうか、まだミルクだよな、つまり」

 まだ吸いたそうにしてる赤ちゃんを無理に引き離し、俺は自分の腹の上で掲げる。涙目の赤ちゃんと見つめ合い、ちょっと考えた。

 まあ、粉ミルク買う金くらいはあるが、この子を一緒に連れて行くのはまずいんだろうな……少なくとも今は。

 少し考えた末、俺は決断した。


「よしっ」

 赤ちゃんをそっと敷き布団に起き、自分は立ち上がって急いで服を着る。

「買ってきてやるから、大人しく待ってろ、なっ?」

 ぐっと親指を立てて言ってみたが、返事は全力泣きの再開だった。

 ……これだからガキは嫌だよ。話し合いが成立しないし。

 まあ、愚痴ってもしょうがないので、俺は無言で財布を掴み、部屋を飛び出した。







 それから買い物をして、また家に戻り悪戦苦闘した辺りの事情は、もう忘れたい。とにかく俺は、深夜二時過ぎになって、ようやく眠りに就くことができた。


 もちろん、満腹してすやすや眠った赤ちゃんと抱き合うようにして、爆睡したのである。

 心配事多くて眠れない気がしたが、疲れていたら眠れるもんだな、やっぱり。


 次に目を覚ましたら、もう朝の十時だったね。このアパートには俺しか住んでないんで、こういう時は静かすぎてよく眠れる。

「……あれ、あいつは?」

 大あくびをした後、俺は腹を掻いてる途中で、赤ちゃんがいないことに気付いた。

 途端に青ざめ、跳ね起きる。


「おい、どこへっ――」


 喚きかけたが、部屋の隅で四つん這いで這い回る全裸赤ちゃんを見つけ、ほっと胸を撫でる。

 人の気も知らず、赤ちゃんは俺を見て「きゃはっ」なんて笑いやがった。


「おまえな、勝手にウロウロと……て、あれ」


 俗に言うハイハイでこちらに戻って来た赤ちゃんを抱き上げ、俺はふと我に返った。

 あれれ……ちょっと……こいつ、昨日はまだ首が据わってなかったんじゃ?


 今は首も据わってて、ハイハイまで出来てるって、ちょっと凄くないか。おまけに、髪もなぜか長めに伸びてるんだが。


 さ、最近の子供はすげーな!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ