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引き取った女の子は邪神の転生体でした  作者: 遠野空
第四章 レージ、いつの間にか大ピンチ
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ずっといっしょ

「ひぐっ」

「みぃ~つけた」


 明らかにユメの声で、この子はまた、遠慮なしに後ろから抱きついていた。

 きょうび、小学生高学年くらいの年頃ともなれば、もう少し女を意識すると思うんだが。まあこの子の場合、見かけはそれくらいでも、まだ生まれて一ヶ月とちょっとだけど。


「いや、これはっ」

 俺は一人で慌てふためき、問題のスフィアモドキをさっとケースに戻す。

 しかしユメは別にそんなのを見つけて咎めたわけではないらしく、「パパがいないとつまんない~。隣にきてぇ」と腕を引っ張っただけだった。


 お、脅かすな馬鹿。




「はいはい」

 俺はクローゼットを閉め、ユメを抱き上げてリビングに戻る。て、今は前の癖で思わずそうしたが、よく考えたら、この子はもう見た目はマジで十歳くらいなんだよな。いくら本人がきゃっきゃ喜んでいても、少しは控えた方がいいかもしれない。


 そう思い、俺はリビングのソファーにそそくさとユメを下ろす。

 ところが、今度はユメの方が手を放してくれなかった。

 妙に膨れっ面で、立ち上がった俺を上目遣いに見つめる。


「パパ、なんだか態度がかわった……前はもっと抱きしめてくれたのに」


「お、おまえなに? あの状態で覚えてるのか、そんなの?」

 つい先日までほんの赤ん坊だったユメを思い出し、俺は恐る恐る尋ねる。

 これがまた、あっさり頷かれたなっ。

「ぜ~んぶおぼえてるー。オムツ換えてもらったのも、ちゃんとおぼえてるもん」



 ……顔が赤くなるからやめてくれ。

 どちらかというと、俺が照れることじゃないけど。

 ただ、そこまで記憶力いいなら、一つ気になることもある。

「なあユメ」

 俺はカーペットの上で膝立ちになり、ソファーに座るユメと目の高さを合わせた。


「じゃあおまえ……元の両親のこともおぼえているのか」

「ううん」

 意外にもあっさりと首を振られた。

「ユメがおぼえているのは、パパのことだけ……ユメのパパは一人だよ」

 囁き声で俺に答えたが……もちろんこれだけ理解力ある子が、白銀の髪と透き通るような青い瞳をした自分が、俺と血が繋がってると思ってるわけがない。


 だが、俺はしばらく黙り込みはしたものの、それ以上は追求しなかった。

 正直、今のこの関係を崩したくなかったのかもしれない。


「……そうか」

 俺があっさりそう言うと、ユメはあっという間に元の笑顔を取り戻し、無邪気に言った。

「今日からは、ユメもパパの背中を流してあげるね! 少し大きくなったし、それくらいはできるからっ」

「い、いやいやっ。それはほら、おまえも大きくなったし、頭もいいんだし、今日からは一人で」


「なんでぇー!」

 全部聞かずに、ユメはいきなり膨れっ面になる。

 床に届かずにぶらぶらさせてした両足を激しくバタバタさせ、思いっきり不満を表明した。


「せいご一ヶ月のユメを、一人でお風呂に放り込むの、よくないもんっ」

「で、でもほら、やっぱりこう赤ん坊の時と違い、いろいろと差し障りが」

「ひぐっ」


 いきなりくしゃっと顔を歪められ、俺は絶句した。

 みるみる涙が目の縁に盛り上がり、ぽろっとこぼれる。

「泣かないでくれよ……俺だって寂しいんだし」

 俺は焦ってタオルを取りに走り、目元をぬぐってやがったが、ユメの方はまるで納得しなかった。赤く染まった目でしゃくり上げながら睨み、急に低い声で言った。

「いいもんいいもんっ……じゃあ、もう今からユメは、パパを一人の男として見ることにするっ。今晩から、かくごを決めてよばいかけるもん、よばいっ」


 こ、こいつはまた、時代劇かなんかでろくでもない情報をっ。

 冷や汗が滲み出てきたが、ユメはどうも本気くさかった。座った目つきで俺を睨み、堂々と宣言した。

「決心したんだし、ユメはこれから、なるべく女らしい格好で家の中をうろうろするんだからっ」

 言うなり、いきなりがばっとソファーの上で立ち上がり、豪快にゴシックドレスのスカートをまくった。多分、勢いよく脱ぐに辺り、まずはストッキングから脱ぎ捨てようとしたんだろう。


 しかしこいつは、元々下着レスのパンストだけしか穿いてなかったのである。

 つまり、ほぼ俺の鼻先といっていい距離に、エラいものが見えてしまう。よせ、俺が捕まるだろ馬鹿っ。

 俺は泡を食ってユメを抱きしめ、元通りに座らせた。


「はなしてぇええー」


 ち、痴漢じゃないんだから、絶叫調の声出すなぁあ。

「わかったわかった、俺が悪かった。娘なんだし意識したら駄目だよな、やっぱり」

 抱きしめたまま、身体を揺すりまくってやると、ユメはようやくじたばた暴れるのをやめてくれた。


「じゃ、じゃあ、お風呂いっしょ?」

「おう、娘だし問題ないぞ。堂々たる生後一ヶ月だ。一緒だとも」

「……寝る時も?」

「う……いやそれは」

「――ぜんぶ脱ぐもんっ」

 即座に喚かれた。



「待て待てっ」

 また暴れだそうとしたユメを、俺はまた揺すって宥めた。ヤバい、こいつはヤバい。ためらいもなく、マジでやらかしそうだ。

 こいつはまた、俺を脅すいいネタを見つけやがったな、ホント!

「わかったわかった。生後一ヶ月だし、一緒に寝て何が悪いってもんさ。当然、一緒だぞ」


「……ずっといっしょ」


 ようやく大人しくなり、ユメは俺の耳元で囁く。

 少し身体を離して顔を見ると、輝くような笑顔で俺を見つめ返してきた。


 いや本当に、笑顔は天使そのものなんだけど。


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