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引き取った女の子は邪神の転生体でした  作者: 遠野空
第三章 いろんな意味で成長
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新宿が戦場に

 

 戦慄して眺めているうちに、そいつがぱっと俺の方を見た。視線に敏感というか、やけに勘が鋭い。


 今頃気付いたが、あいつの髪は黒だが、目なんかアイスブルーだ。当然、洋風の顔立ちで、映画スターのように目立つハンサムだった。

 年齢的にまだ少年っぽく見えるのに、ドスのきいた目つきはガキのものじゃない。


 ――そ、そうだっ。


 俺はヤケクソで一計を案じ、奴と目が合ったその時、無駄な演技力を発揮し、「ひいっ」と声に出した。

 そのまま盛大に震えつつ、その場でくるりと回れ右をする。


 早足でわざとユメのいるドレスショップを素通りし、速攻で下りのエスカレーターの方へ急いだ。

 無論、挙動不審でオドオドした態度全開でそうしたのだ。


 状況柄、この演技は非常に簡単だった! 


 つか、九割九分はマジでびびってる。

 ちらっと振り向くと、おお見事に引っかかりやがったぞ、あいつ。まっすぐ俺を見て、追いつこうと早足になった。

 どうしてここがわかったのか知らんが、とにかくピンポイントでユメがいる場所を特定したわけじゃないらしい。

 そこは、僅かながら救いだった。




「おわっ」

 ……考えている間に向こうはいきなりダッシュして、俺は思わず声が洩れた。

 当然、自分もなりふり構わず、全力疾走開始である。


 エスカレーターに走り込むと、それこそ二段飛ばしくらいで、ガンガン駆け下りていく。悪運強く、俺とあいつの間に女子高生の二人組が入り、向こうはすぐに俺に追いつけない。


 この間に、できるだけユメから引き離して――


「そこのおまえ、待てっ」

 いきなり、達者な日本語で後ろから怒鳴られた。

 思わず振り向くと、否応なく足止めされた男が、俺を睨み付けていた。今頃気付いて振り向いた女子高生達が、思わぬイケメンを目にして、「きゃーっ」などと嬌声を上げている。


 これだからきょうびの女は、女はっ。


「なぜ逃げるっ」

「なぜだとー?」

 俺は絶好調で怒鳴り返してやった。

 すっかりこっちの計略に嵌まりやがって、この間抜けがー。


「わかりきったこと訊くな、阿呆っ。ハンター臭い貴様に、あの子の居所を教えるわけにはいかんなあっ」


「なにっ」

 明らかに向こうの声が緊迫した途端、俺は脱兎のごとく逃走を再開した。

 普段は絶対にしないが、進路上で邪魔だったら無情に他人を突き飛ばし、後先考えずに全力で逃げたのだ。


 丸井のビルから走り出ると、人でごった返す新宿通りを、新宿御苑の方へ全力で駆けていく。こう見えて、唯一足の速さだけは自慢できるのだ、俺はっ。

 ……と思ったのだが、背後で「きゃああっ」なんて悲鳴が聞こえ、なぜか背筋に悪寒が走った。





「なに、あの人っ」

「おい、なんかの撮影か!」

 

 周囲が一斉にざわめき、俺の悪寒を煽りまくる。

 走りながら振り向くと――なんと、あの青い瞳のクソガキが、すぐ後ろに追いついていた。


 しかも、背中の剣を抜いて斬りかかろうとしてるじゃないかーーっ。


「う、嘘だろっ」

 俺が焦って身を沈めるのと、鋭い風切り音がするのが同時だぜぇ。銀色に光るでっかい剣が頭上をギリギリでかすめ、俺は情けない呻き声を絞り出す。


 死の恐怖に背中を押され、とっさに車道へ飛び出してしまった。

 当然、別に歩行者天国じゃないので、新宿通りは今も絶賛、車が走行中である。特に信号待ちでもなかったわけで、早速走ってきたセダンに轢かれそうになり、チビりかけたっ。


「う、うおおおおおっ」


 多分、今少し上空から俺を見たら、「あの馬鹿、なに考えてんだ?」と誰しも思うはずだ。ひょっとして、他人事なら割と愉快に見えるかも。

 なにせ今の俺は、車がビュンビュン走る車道のど真ん中を、全力で逆走してるんだから。

 まさか、こんな都心のど真ん中で、あんな目立つ剣を使うとは思わなかったっ。

 ああ、思わなかったさ!


 発狂するようなブレーキングの音と、ドライバーの怒鳴り声、耳をつんざくような甲高い車の警笛、そして遠くから口々に叫ぶ通行人の絶叫――あっという間に周囲は大騒ぎである。


 しかし、その渦中にある俺は、構ってる暇なんかないっ。

 つか、歩道で携帯出して、嬉しそうに俺達にカメラ向けてる連中は死ねっ。こっちはマジで命かかってんだよ。


 見てないで助けろっ、いや助けてください!


 半泣きで走りつつ、俺は内心で絶叫していた。

 前からは大小様々な車が蛇行しつつ、俺達を避けて擦り抜けていく。道路の端に避けて止まる車もあるが、まさか人が走ってるとは思わないのか、そういうのはまれだった。


 大抵、寸前になって俺に気付き、慌ててハンドル切るのだな。フロントガラスの向こうで、運ちゃんが叫んでいるのが、やたら目につく。

 めちゃくちゃ怖いぞ、ううっ。


「逃げられはしないぞっ」


 ベコボコッなんて金属音がして、あいつの声がまた近づく。

 振り向けば、「ゲームかよっ」と思うようなでっかい剣を持ったあいつは、走る車の屋根を次々に飛び移り、元気いっぱいに追撃中だった。


 おいおい、おまえホントに、周囲はどうでもいいのなっ。


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