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引き取った女の子は邪神の転生体でした  作者: 遠野空
第三章 いろんな意味で成長
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遭遇!(か)

 

 こいつ、だいぶ気に入ったらしいな、そのセリフっ。


「とにかく行くぞっ」

 俺はわざとぶっきらぼうに告げ、ユメを促した。







 この大きなマンションに、自分達だけしか住んでいない気安さに加え、しかも十階は部屋もうちだけだ。

 爽快な気分でエレベーターの前に立ったのだが――。


 なぜか非常階段の方から足音が聞こえ、俺は無意識のうちにユメを背後へ庇った。なにしろ、異世界のハンターなんて人種に狙われてる子だからな。

 当然、俺も警戒するさ。


 実際、階段を上がってきた男は、あらゆる意味で異様だった。

 妙に裾の長い上衣に、古くさいシャツ、それに髪は長い銀髪ときた……て、銀髪? 美麗さに差はあれど、色はユメに近いが。


 しかも、そいつはかなり切れ者風のイケメンだったのだが……俺と目が合うとなぜか「え、なんだおまえ?」というようように盛大に顔をしかめ、次に俺の背後のユメを見て、劇的な速さで顔色が青白くなった。



「……うあっ」

 などと妙な声を出し、わたわたと浮き足立つ。

「あんた、誰だ? この階にはうちしかないぞ」

 警戒心満載の声で俺が尋ねると、そいつはまずぶんぶん首を振った。


「いぇええ……ちょっと間違いました。気にしないで忘れてください」

「待てよ、おい」

「失礼しました!」


 俺が止める暇もなく、階段を駆け下りる音がした。

「……なんなんだ、今の?」

 なんとなく、俺の腰にしがみつくユメを見ると――なぜかこの子、俺に向けたことのないような目で空っぽになった非常階段を睨んでいた。

 そりゃもう、怒りのオーラが立ち上りそうな様子で。

 しかし、俺が見ていることに気付くと、あっという間に笑顔を取り戻した。すげーわざとらしい。


「きっと、新しく越してきた人じゃないかなぁ……それとも、ユーレイさん?」

「や、やめてくれよ、おい」

 他愛なく俺は震え上がってしまう。

 今のところ、不動産屋の横田が脅したように、何か妙なものを見た覚えはない。

 しかし、このマンションに越してきたいろんな人が、次から次へと引っ越していくのは事実だ。俺達が腰を落ち着けて一ヶ月経った今、もはやロクに入居者も現れなくなったからなー。


「ほら、いきましょう、パパ」

 ユメが上がってきたエレベーターに俺を引っ張り込んだので、素直な俺は深く考えずにそのままゲージに乗った。

 なんか誤魔化されてる気もしたが、あまり深く追求する気はなかった……少なくともこの時は。


 


 ところで、今朝の二段階変身騒ぎで「ユメはしかし、あり得ないような美形だなぁ」と俺は感心したものだが、そう思うのは何も俺だけではなかったようだ。


 いやぁ、通りを歩けば、老人も奥さんも子供も、全員が立ち止まってまじまじとユメを見る見るっ。

 俺と手を繋ぐこの子を見た途端、そりゃもう街角でビル・ゲイツに会ったようなぶったまげた顔で、ぎくんと立ち止まるわけだ。


 白銀の髪と北欧系の顔立ち(だと俺が思うだけだが)が珍しいというのはごく小さな理由で、実はみんな、ユメの美貌そのものに度肝を抜かれている気がする。


 ぽかんと口開けて、呆然と眺めるしな。

 それにしても、殺到してくる視線を全部傲然とスルーするユメの胆力に驚く。この子は周りなんざ全然気にならないらしく、俺と手を繋いでスキップするように歩き、他へは目もくれないのだな。

 その方が目立たなくていいけど、なんかいつも笑顔のユメと目が合うので、こそばゆい気がする。





 その圧倒的な注目度は、地下鉄を乗り継いで新宿三丁目近くの丸井に入った途端、益々増大した。寂れた郊外と違い、さすがに人の数が違う。

 女の子向けのおしゃれな服を売る専門店があった気がしたので、俺はわざわざここまで来たわけだが――


 エスカレーターで上がった階で目当ての店に入った途端、店員の姉ちゃんが走り寄ってきたね。




「きゃあああ……なんですかこの妖精みたいな子、すっごい美人!」


 叫んだかと思うと、ユメの周囲をぐるぐる周り、「うわぁうわぁ」と声に出している。大丈夫か、この人。

 ユメは相変わらず平気そうだが、でも少し居心地悪い顔になったな。

 早く決めてやろう。


「ええと、なんかこう、華やかそうなドレスをですね」

「はいはい、もちろんっ」


 ……ユメの背中を押すようにして、ドレス並べた奥へ連れ込んでいく。俺なんか、半秒も見なかったな、あの人。まあ、気持ちはわかるが。


「外で待ってるから、いいのを選んでもらえよー!」


 こちらをしきりに振り返るユメに声をかけ、俺はそのまま店の外……つっても、壁があるわけじゃないが、とにかく敷地の外に出た。

 周囲が女の子向けのドレス専門店ばかりでいたたまれないので、少し離れて待つことにする。


 ……後から考えてみれば、俺はそんな油断をするべきじゃなかったのだ。




 

 少なくとも、都心のこんなトコまで出て来て、ユメを人前に晒すべきじゃなかった。この一ヶ月が無事に過ぎたものだから、俺はすっかり油断していたらしい。


 というのも、俺がニヤニヤしながら「いやぁ、やっぱりユメは誰が見ても美人に見えるのだなぁ。まだ十歳くらいの外見なのに、末恐ろしい子だぜ」なんて脳天気に考えていたその時――

 微かな声が聞こえた。


「なにあの人、なんかのコスプレ?」


 客の誰かが囁いたそのセリフに、俺は特に警戒心を抱いたわけじゃない。

 しかし緩んだ顔のまま、「へえ、それってどんな奴?」と思い、そちらに顔を向けた。


 途端に、俺の阿呆のような笑みは綺麗さっぱり消えた。


 エスカレーターの方から、長身の男がこちらへやってくる。背中にでっかい剣を装備し、真紅のコートを羽織った奴が。

 そいつの外見印象を一言で言えば……そう、まさにゲームに出てくるような「戦士」に見えた。


 あるいは、異世界から来たハンターに!! 


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