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引き取った女の子は邪神の転生体でした  作者: 遠野空
第三章 いろんな意味で成長
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全○待機

「あのね、パパ」


 俺の困惑など特に気にする様子もなく、ユメは息がかかるほどの間近で話す。ていうか、実際に息がかかって、なぜかえもいわれぬ香りがする。髪から漂うシャンプーの香りと一体化し、くらくらする。

 俺の吐く息とは大違いで、随分と香しい。

 いや……娘の呼気を嗅いでる場合じゃないが。


「今日からオムツはいらないから」

 俺がまだ驚きっぱなしで口を半開きにしてる姿に、ユメはくすくす笑いながら言う。

「ただ、服はもう何も合わないの……ごめんなさーい、せっかくパパが通販で買ってくれたのに」


「お……おぉ」


 じっと見られ、俺は思わず微妙な返事をした。

 つか、おまえとにかく、その格好やめろ。多分、第三者が見たら、女性上位で俺が押し倒されてるみたいに見える。


 あと、胸を押しつけるな、胸をー……いや、実はちょっと嬉しいんだけど。俺の寝間着、上衣が薄い生地で大勝利とか、速攻で考えてるけど。

 混乱の極みを地で行くようなものだが、ユメがじっと俺の返事を待っているのに気付き、わざとらしく咳払いした。

 ユメは娘ユメは娘ユメは娘と、脳内で念仏のように唱える。


「ええと……つまり、服が合わないから、買って欲しいということだな」

「ユメはこのままでもいいのよ……ほんとうは」

 小さな唇の端を吊り上げ、ユメは目を細めた。おお、なんか小悪魔的な笑みになったぞ。


「でも、下着を含めて合うのが何もないから、いつも裸になっちゃう……それでもいい、パパ?」


「わあっ」

 そのまま悪戯っぽい笑みで起き上がろうとしたので、俺は慌てて毛布と掛け布団を神速でユメの身体に巻いた。

「すっ裸で起き上がるなっ」

「どうしてぇ? 昨晩だって一緒にお風呂入ったのに?」

 くすくす笑いながら言うなよ。

 こいつ、わざと俺をからかってるな。ここは一つ、威厳を見せる必要がある。

「アレだ……将来のためにも、今から礼儀を覚えないといかん。いい年した女の子は、裸でうろうろしないもんだ」


「ユメ、いい年じゃないもの。まだ生まれて、一ヶ月とちょっとだもん」

 

 へ、屁理屈を言うな、屁理屈をー。

「それでも、精神年齢は高いだろっ。とにかく、急場だから俺のお古を貸してやる。それと、朝のミルクも用意するから、待ってろ。なっ」

「……ミルクも飲めるけど、もう普通の食事でもだいじょうぶだよ」

「ホントかぁ? ちょい口を開けてみろ」

「はぁい」

 素直に返事し、ユメは大きく口を開けた。


「あぁ~ん」


 こりゃまた……なんという真っ白な歯。しかも、虫歯一つない歯ってのは、見てて気持ちいいな!

 ただ、俺が見とれてほけーっと口の中を覗き込んでいると、徐々にユメの唇が接近していて、こっちはたじたじとなって慌てて身を離した。

 おまえ、少しは遠慮しろよ……血は繋がってないんだし。


「ま、まあいいだろう。確かになんでも食えそうだ」

 俺はよれよれの寝間着姿で立ち上がり、あたふたと脱ごう――として、ふと振り向いた。


 ユメは膝を崩した女の子座りで、ちょこんと敷き布団の上に座っている。早くも掛け布団は取っていて、今は薄い毛布のみを身体に巻いていた。

 ……見ようによっては、こっちの方が裸よりヤバい姿に見える。

 あと、俺をまばたきもせずに注目するなとっ。赤ちゃんに見られても特に何とも思わないが、年頃の女の子にじっと見られたら、脱ぎにくいだろっ。


 しかし、そう注意するとまたからかわれる気がしたので、俺はそれこそ秒速で脱いでチェックのシャツとチノパンに着替えた。


「じゃあ、朝は何が食べたい?」

「カラムーチョの、一番からい味!」


「そりゃメシじゃないだろ。あと、おまえあれが好きだなぁ」

 どぎまぎした感情を無理に押さえ込み、俺はそのままリビングの方へ移動した。


 結局、朝食は無難に豆腐の味噌汁と目玉焼きにした。

 ユメは一人で三人前分くらいのお代わりをして、俺をびびらせてくれた。

 この子、量が多いのはミルクだけじゃなくて、固形物もすごい量食うのな。




 食事の後は買い物に行くことにした。

 幸い、今日は俺が始めたバイトも休みなので、時間がある。

 それに、サクラから逃げて一ヶ月だ。そろそろあいつも諦めたかもしれないし、ハンターもしかりだ。


 仮に運悪くハンターに出くわしても、ユメの姿も今やこの通りである。出会って、すぐにバレる心配もあるまい。

 ユメには、裾を思いっきり折った俺のジーンズと長袖シャツ(同じく袖を折って)、あと風邪を引かないようにパーカーも貸してやった。

 無論、だぶだぶだが。


「幸い、まだ金には余裕あるから、たくさん着替えを買ってやるからな。何かファッションの好みあるか?」


「う~ん……色は白か赤か黒がいいな……最高は黒? 他は、パパの好みでいいの」

 ユメはまた唇を綻ばせ、小悪魔的な笑みを見せた。

「下着も選んでね……合いそうなのを」

「それは自分で選べ、自分で」

 俺の慌てぶりを見て、満面の笑みでユメがぐっと親指を立てた。


「いろんな意味でヤバい!」



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