忘れていた、重要なこと
もうホント、何事かと思ったが。
幸い、爆発はその一度だけで、後は揺れもすぐに収まった――が。
どうも、今の爆発音は、階上から聞こえた気がするのだな。
つまり、この階層の一つ上に当たる、第十一階層から聞こえたような。
「今の、この上だったわよね?」
サクラがきっと視線を上に向け、呟く。
「おまえもそう思うか――アリサ、センサーは?」
一番情報が正確そうなアリサに尋ねると、ばっちりだった。
「熱源センサーと、動体センサー、共に反応ありますっ。上の階層で間違いありませんっ」
「よ、よし、じゃあ――」
「とつげきー!」
「あ、こらっ」
固唾を呑んだ俺を尻目に、ユメが叫び声を上げて、元の階段の方へ走っていく。一番早いコースで上の階に行くつもりらしい。
「こらこらっ。だから俺が先頭だって!」
慌てて追いかけたが、この子がまた、足が速いっ。
しかし、今回ばかりは意地でも先へ行かせんっ。敵がテレサだったら、ヤバすぎるだろっ。
とはいえ、奥の手を今使うのは控えた方がいいっ。
まだ切り札を出す段階じゃないからな。
ここは一つ――
「アイナ、俺をおぶって全力でセンサーが反応した地点まで頼むっ」
楽々併走するアイナに、俺は唐突に指示を出す。
ぱっとこちらを向いた彼女は、実に嬉しそうに声を張り上げた。
「了解しましたっ」
「うわっ」
返事と俺をささっと抱き上げるのが、ほぼ同時だった。
俺だって全力疾走してたのに、なんと器用なっ。
「れ、レージ様っ」
「ずるいわよ、レージ!」
「ぱ、パパぁあああっ」
レジーナ達を始め、みんながガンガン文句つける。
しかし、アイナの疾走が速すぎて、たちまち全ての声が後方に置き去りになった。サイボーグの子が本気出したら、やっぱ速いわっ。
「そ、それにしても、おぶってくれたらいいんだけどっ」
なにもお姫様抱っこせんでもっ。
俺の苦情に、既に階段に突入したアリサが答える。
「この方が速いですよっ」
……この子には、ロボット法三原則などは無縁らしい。
命令を微妙に破ってるぞー。
しかし、速いのは否定できず、俺達はたちまち上の階層に至り、今度は通路を走り始めた。
ていうか、ここがまだ暗いってことは、どうやらサブコンピューターの電源はそのままか。
じゃあ、ここで一体、何が――
「マスターっ」
いきなり急停止したアイナが、俺に呼びかける。
「ど、どうしたっ」
「熱源センサーと動体センサーの反応が、ふいに増えましたっ。総数、101体となっていますっ」
「なにっ。ちょ、ちょっと下ろしてくれっ」
アイナに頼み、ようやく俺は通路に降り立った。
ふいに緊張した理由は自分でも不明だったが……そのうち、否応なく思い出した。
「タイプ012だっ。量産型ヒューマノイドで、アイナより前の旧式タイプっ」
思い出した俺は、思いっきり喚いた。
くそっ。財宝にかまけて、今の今まで、そっちを忘れていたっ。マリアから、量産型ヒューマノイド100体を見つけてくれって言われてたのにっ。
「この反応が量産型ということはっ」
アイナもはっとしたように俺を見る。
「残る一人が敵で――旧型のタイプ012を起動させたのですかっ」
「……他に考えようないだろうな」
俺は腰の刀に手をかけながら、答えた。
つまり、してやられたってことだ!