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引き取った女の子は邪神の転生体でした  作者: 遠野空
第二章 ユメの過去
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ユメの覚醒

 

 言われて、俺はそっと手を抜いた。

 慌てて抜くとヤバい気がしたからだ。

 抜いた手をしげしげと眺めたものの、特に血もついてないし、さらりとしている。全く、最初のままだった。


 こっちが呆然としている間に彼女はさっさと服を着てしまい、なんだかひどくがっかりした。





「今のヤバそうな魔法はなんだよ?」

「だから、呪縛よ。わたしが自分自身で呪縛をかけたの。わたしの名前を声に出して呼び、手の中に心臓を掴むイメージをするといいわ。それで、どんな呪縛をかけたかわかるから」


「……よし」

 なんだか胸騒ぎがした俺は、あえて疑問を呈することなく、言われた通りに試してみた。

 右手で何かを掴むような手つきをして、「碧川サクラ」と声に出す。

「……扱いには気をつけてね」


 サクラがぼそりと言った途端、手の中に「何か」が生じるのがわかった。実際には空を掴んでいるように見えるのに、俺は今、確実に掌の中に何かを握っている。

 ドクドクと動くそれは、まるで生き物のようで――


「――くっ」

 

 俺が反射的に指を動かしたせいか、サクラがよろめいた。

 なんと、心臓の辺りを押さえて。

 その仕草で、俺は自分が今、自分が何を握っているのかようやく理解した。も、文字通りのこいつのハートか、おいっ。

 慌てて投げだそうとして、辛うじて思い留まる。


「ど、どうすればいい? 解除の仕方は?」


「解除じゃなくて、手の中の感触を消したいのなら、左手と右手を重ねればいいわ。それで待機状態からキャンセルされるから」

 焦って言われた通りにすると、ようやく右手に何かがあるような感触が消えた。

「お、おまえなっ。これ、どうやれば完全に戻せる!?」

 詰問すると、サクラはさらりと言ってのけた。


「さっきと同じ儀式をもう一度繰り返さないと、完全には解除できない。でも、今はあえてしないの……だって、あなたの不安を消してあげる必要があるから」


 白い額に脂汗を浮かべ、胸を押さえたままで、サクラは俺を見る。上目遣いに、何かを訴えるように。


「これで、プリンセスに会わせてくれるわね?」


「おまえ、とんでもないヤツだな」

 俺は喉の奥で唸った。

 こいつの執念の凄まじさには、脱帽ものだ。





 半時間後、俺はサクラを連れて自分のボロアパートに戻った。

 ここまでされて、「会わせられない」とは言えんしな。

 ちなみに、サクラは未だに刀を持ったままだが、本物だと思うヤツはいないのか、道中も特に騒ぎにならなかった。


「いいか、会うのはいいけど、妙なこと吹き込んだりするなよ。あの子はまだ、子供なんだから」

「……妙なことって?」


「そりゃ、わたしと一緒に世界征服しましょうとか、そういう類いのアレだよ」


 俺は厳かに告げる。


「過去がどうあれ、今はただの赤ちゃんなんだから、そういうアレな道に進ませる気はないんだ、俺は。清く正しく美しく育ってほしいと、マジで願ってる」


 まるでプリンセス○ーカーにハマったヤバいオタみたいだが、まさに俺の本心である。まだ過去のあれこれを信じたわけじゃないが、本当だとしても、今生ではまっとうに生きてもらうさ。

 間違っても、あの子をダークサイドには落とさないぞ!


「ダークスフィアと一体化しなければ、そういう道もあるかもしれない」


 サクラは真面目に答えた。

「でも、どうせダークスフィアは、元の人格に引かれて彼女に近づく。一体化するのは避けられないでしょうね」

「……そういや、あいつらもダークスフィアがどうのと言ってたが、なんだそりゃ」


「ジキルとハイドの話を知ってる?」

「確か、薬品か何かで、完全な悪に目覚めた博士の話だろ?」


「そう。……ジキル氏の崇高な人格が嘘のように変貌して、粗暴邪悪な存在である、ハイド氏に変貌する。ダークスフィアというのはつまり、一体化することでジキル博士がハイド氏に変身するようなものだと思えばいい。いわば、プリンセスを真の邪神へと変化させる、魂のエッセンスのようなものよ」


「や、ヤバいじゃないか!」

「そうだけど、どうせ忌避したところで、ダークスフィアは必ずプリンセスの前に現れるわ。なぜなら、両者は元々一つだから」


「諦めが早いよ、おまえっ。俺がそうはさせんさ!」


 俺は引きつった顔で笑い、アパートの階段を上がった。

 サクラを引き連れて下が抜けそうな廊下を進み、奥の自分の部屋の前に立つ。

 鍵でドアを解錠した後、開ける前にもう一度、念を押した。


「とにかく、今はユメを刺激しないように。あの子は、まだタダの赤ちゃんなんだからな、いいな!」


 ようやく、思い切ってドアを開けた。

「……え」

 ――いや、ちょっと固まってしまった。

 意外な光景というか、あり得ない光景が部屋の中に広がっていたからだ。


 テレビは下のコタツごとだし、それに洗濯物入れの藤籠も小さいタンスも……うちの乏しい家具が全て、本当に全部、ふわふわと宙に浮いているのだ。

 その真ん中にユメ自身も浮かんでいて、周囲を見て笑顔で手を叩いていた。


「きゃはっ」

「おいおい」


 俺はよろめいて壁にもたれかかった。



 こ、今度はそういう力に目覚めたのかっ。成長早すぎだろ!


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