財宝は見つけたものの
幸い、俺の心配は杞憂だった。
俺……じゃなくて俺達は、ついに当初の目的を達成し、ドラゴンが守っていたお宝を発見したらしい。
二番目の扉の奥にあったのは、マジでお宝だったのだ。
それこそ、俺の身長より高い金貨の山が無造作に積み上げられていて、しかもそんなお宝の山が幾つも奥まで連なっていた。
後は、木箱に詰められた宝石の山とか、変わったところでは書物の山とか。
この書物もまた、普通のものではなく、今は失われた魔法が書き込まれている。
多分、かつての闇の種族が使っていた魔法の奥義らしい。
「うわぁ、やべー……予想以上にがっつりお宝だった。これで俺達は、あと十年は戦える!」
ぐっと拳を固める俺である。
「恐れながら、十年どころか、数千年は戦えそうですぅ」
ピンク髪のレジーナが律儀に訂正してくれたが、サクラが密かに失笑して俺を見た。
「またアニメネタなのっ。どんだけアニメ見てるのよっ」
「元ネタがわかるってことは、おまえも似たようなもんだろっ」
――いや、待て。
今はサクラと言い争ってる場合じゃない。
ここは一つ、確実にこのお宝の山を上の施設に移さないとなっ。
「エレイン、例の転移の魔法陣を隣のドラゴン部屋に大きく描いて、そこへ財宝を移して運ぶってのはどうかな。それなら、財宝を隣の部屋に移すだけで、後は施設内に保管場所決めて、同じ魔法陣描けば済むし」
「よきお考えかと思います」
深々と一礼して、エレインが微笑んだ。
「あとは、万一の盗難に遭わないように、ここに何名か残って、魔法陣の用意をしつつ、警護に当たりましょうか?」
「それがいい、それがいい」
せっかくのお宝なのに、最後の最後で掠め取られたら笑えんしな。
何度も頷き、早速俺は、人選に入ることにした。
エレインを含めて七名ほどに留守番をしてもらい、俺はレジーナ他三名のメイドさんと、サクラとユメを連れ、一旦帰還することにした。
正直言えば、帰路は例の地下階段のせいで、めちゃくちゃダルいんだが、まあしかし、そんなのは今回だけの辛抱だ。
施設に戻ったら、早速お宝発見を伝えて、適当な広間に魔法陣描けばいい。
超速でやれば、エレイン達の元へすぐ戻れるし、交代要員も素早く送れる。
……金貨は既に今の時代に流通してないタイプのものだったが、しかし当然ながらゴールドとしての重さで取引は可能なので、俺達にはさほどの不都合はない。
時代がバレたらまずい場合は、金貨溶かして固まりにしちまえばいいしな!
「パパぁ、あの書物の中に、もっと楽に元の日本へ戻る転移魔法も、きっとあるよねぇ?」
ユメが不意に訊いた。
「おお、あるかもしれないなあ。なんだ、帰りたいのか?」
「ううん!」
軽やかに石段を登りつつ、ユメはニコニコと首を振る。
「そうじゃなくて、簡単に戻れるなら、カラムーチョをどっさり買ってこられると思ったのー」
「はっはっは!」
「わたしは、新しいお洋服をたくさんと、櫛とコンパクトと下着とセーラー服を補充したいわ」
「くわっ。厚かましいぞ、サクラっ。だいたい、以前の要望より増えてるだろうがっ」
「なんでユメとわたしで、そんな反応の差があるのよっ」
ああ、サクラといつものくだらん言い合いしてても、お互いどこか笑顔だったりして。
金があると、人間、心に余裕が生まれるよなあ。
いや、人間に限らず、サイボーグの少女のアイナだって機嫌良さそうだ。
そんなこんなんで、これほど疲れる帰路の行程も割と早く終わり、俺達は笑顔で元の拠点である近代施設に戻った――のだが。
蓋を開けたままだった十三階層へ上った途端、いや既に上る前から、初めて聞く派手な警報の音がガンガン響いてきた。
なんか電子音を合成したみたいな警報の音だったが、思いっきり焦燥感に駆られるような音で、教えられなくてもこれが警報だとわかる。
おまけに、それに重なるように、マリアの声が思いっきり警告を発している。
『――緊急事態発生、緊急事態発生! 全員に繰り返しますっ、これは訓練ではありませんっ。未登録侵入者の熱源を、第四階層にて一瞬探知しましたっ。侵入者はそのまま、さらに下の階層へと移動した模様っ。全員、警戒してくださいっ』
「げげっ」
十三階層に上がった俺は、思わず声に出しちまった。