財宝と対面……か
「闇の種族の一員であることを証明って……そんなのあるの?」
サクラが振り返って俺達に訊いたのは、まあ当然と言えよう。今は味方とはいえ、こいつは元はブレイブハートだったからな。
しかしあいにく、俺はもちろん、ユメも武装メイドさん達も全員揃って首を傾げるという。
「誰も知らないのっ!?」
「というより、だいたいその合い言葉って、遥か昔に定めたものでしょうから、今の時代と関係ないと思います!」
呆れたようなサクラの言い方に、エレインが尖った声で返す。
「もう、みんなで突入してあの二匹倒して、早くお宝ゲットでカラムーチョ食べたいのよっ」
ユメがひときわでっかい声で叫んだ途端――
例の割れ鐘のような声が応えた。
『それは合い言葉ではない。あと二回間違ったら、マジックドラゴンを解放する』
「わあ、ユメの叫び声を、勝手にカウントされたああっ」
衝撃のせいで、俺はきっちり呻いてしまった。
それでも、またカウントされないように声を低めたのは、上出来だったろう。
まあ、チャンスが一度じゃなくて、助かったということころか。
さすがのユメも目を丸くして、自分で自分の口を押さえてるし。
「めんどくさいから、合い言葉なんか無視して、あのドラゴンを殺っちゃいましょうよ? なんなら、わたしが先頭切るわ」
既に全員の先頭にいるサクラが、相変わらず戦闘的なセリフを吐いてくれた。
「待て待て、刀の柄から手を離せって! せっかくチャンスがあと二回あるんだから、使わない手はないだろうっ。わざわざ、あんな物騒なドラゴンとやり合わんでも! なにか、闇の軍勢風のスローガンないか?」
「レージ様、わたしが試してみても構いませんか?」
エレインがお伺いを立てたので、俺はしっかり頷いてやった。
「もちろん。外れた時はみんなで戦闘だから、気にせず試してくれ」
「世界が平和でありますように!」
エレインではなく、いきなりサクラが叫び、俺達はぎょっとして見た。
『それは合い言葉ではない。あと一回間違ったら、マジックドラゴンを解放する』
おまけに外れてるぞ、くそっ。
「か、勝手に命のカウント減らすなよな、おいっ」
しかも、微妙に宗教入ってたし、今の!
「そうですよっ。抜け駆けはよしてくださいっ」
自分が試すつもりだったエレインが、小声で文句をつける。
「早い者勝ちだわよ、そんなの」
「外れは黙っとれ!」
サクラに言い返し、俺はエレインを促した。
「これ以上邪魔が入らないうちに、頼む。それとみんな、最後も駄目だった時に備えて、戦闘準備っ」
「はいっ」
俺の号令に、みんな小声で応じてくれた。
緊張漂う中、エレインは数歩前へ出て、大きく息を吸い込むと凜とした声で叫んだ。
「全ては、大いなる君のためにっ」
「いや、それはメイドさん達の挨拶だろっ。さすがに違うくないかっ」
完全に失敗を予感した俺は、やむなく自分も前へ出る。
遺憾ながら、俺が最高レベルで一番HPが高いんだから、高見の見物は許されんっ。
しかし――驚いたことに、どうも今のが正解だったようだ。
というのも、今にもこっちへ向かってきそうだったドラゴン二匹が、その場ですうっと消えてしまったからだ。
アレはどうやら名前の通り、本気で魔法の産物だったらしい。
「うおっ。でかした、エレインっ」
掌を返して激賞した俺は、勇んで入り口に駆けつけようとした。
しかし、その頃には他のメイドさん達が――いや、誰よりも先にサクラとユメが揃って猛ダッシュを決め、奥の入り口まで辿り着いていた。
軽く扉を押して見たサクラが俺を振り向く。
「鍵は掛かってないわ!」
「よ、よしっ。みんな揃うまで待て!」
俺の返事に、みんな歓声を上げてサクラ達の元へ走った。
こういうところは、さすがに年頃の女の子達である。
……ていうか、今度こそお宝と対面できるんだろうな?