お宝の守護者といえば
とはいえ、扉が破壊された以上、中へ入るしかない。
しかし……中へ入ると、いよいよ悪臭がどっと吹き付けてきた上に、足元がひでーことになっている!
「うわぁ、各種動物の骨やら……嫌過ぎることに人間の骨らしきものも!」
せっかく、さっきは見ずに済ませたのにっ。
ここが惨劇の震源地かよっ。
「レージ様っ」
「ご注意を!」
「前を見なさい、レージっ」
なぜか鼻を摘まんでいた俺の前に、エレインとレジーナとサクラが素早く三人で壁を作る。
しかも、三人とも既に武器を手にしている!
「な、なんだ……」
「パパ、おっきな龍が二匹繋がれてる!」
心配して近付いてきたユメが、びしっと奥を指差した。
「りゅ、龍!? 龍ってドラゴンのことかっ」
焦った俺は、辛うじて逃げたくなるのを堪え、奥に目をこらした。
すると……おお……いる、確かにいる!
暗闇に目が慣れてくると、三階建てのビルくらいもある巨体が二匹、奥にどっしり構えているのが見えた。銀色の鱗の、とても生き物とは思えんのがっ。
「じょ、冗談っ」
『レージ様っ、お下がりくださいっ』
続々と追いついてきた数十名のメイドさんが、たちまち殺気だって俺の前に出ようとする。
しかし、その時ようやく、このただっ広い場所に明かりが灯った。
「いや、迂闊に襲い掛かっちゃ駄目だっ。あの二匹、壁に繋がれてるぞっ」
首のところに銀色のぶっとい鎖みたいなのが嵌められ、鉄環で後ろの壁に固定されているのが見える。たまに、悔しそうにでっかい声で鳴くが、一応、今いる場所以上に前へ出てきそうな気配はない。
「刺激せずに、距離を取るんだっ。こんなトコで無駄死にしたら、シャレにならないからなっ」
「ねえパパっ」
この非常時に、ユメがめちゃくちゃ好奇心溢れた目で俺を見た。
「もしかして、あのドラゴンってお宝を守っているんじゃないのおっ。だって、後ろの壁に、もう一つ扉があるもん」
「うおっ」
言われて初めて気付いた。
そう言えば、二匹の後ろに最初の入り口よりやや小さい扉がある。同じく両開きに見えるが。
しかし、あの扉はモロに二匹の真ん中にあるんで、何も考えずに近付いたら、左右から攻撃されまくりだな。
「ということは――」
サクラが刀を下ろし、周囲を鋭く見た。
「この広間に転がってる骨の山とか、ミイラ化した死体みたいなものは、全部お宝を盗もうとして入ってきた連中かもね」
「……サクラさんが正しいと思います」
サイボーグ少女のアイナが、冷静に答えた。
「今、ざっと周囲を探索しましたが、倒れている者達は全員が同じ方向――つまり、奥の扉を目指したような形跡があります。うっすらと残る足跡が全部、一度はそっちへ向かおうとしていますから」
「……で、全員が見事にお宝奪取に失敗して、ここで玉砕と」
サクラが嫌な言い方でもって後を引き取る。
しかし、まんまその通りだな、うん。
これだけ証拠がありゃ、嫌でもわかるわい。
「どうする、レージ?」
「お、俺が決めるのかっ」
不意打ちを食らって、素っ頓狂な声を上げちまった。
「レージが決めなきゃ、誰が決めるのよっ」
「レージ様っ」
サクラを無視して、決然としてエレインが前へ出た。
いや、彼女が何を言うつもりか察したのか、なんと、そこにいたメイドさん達の全員が、俺に迫ってきた!
「ここは私があの扉に突入しますっ」
「いえ、今こそ私がっ」
「この中では、あたしがレベル低い方ですので、今こそお役にっ」
「いえいえっ、私がご恩返しにっ」
「待てえっ!」
俺が思いっきり声を張り上げると、嘘みたいに静まり返った。
いや、黙られても困るけどな……単に、「自分を大事にしろ」とか、その手の青臭い説教するつもりだっただけだし。
俺が何か妙案でも出すと勘違いしたのか、全員の期待に満ちた目が痛いぜ。
「いや、あのな。ここは一つ」
やむなく、全員でかかろうと言おうとした途端、広間に割れ鐘みたいな声が響いた。
『宝物庫に侵入した者達に次ぐ!』
突然だったので、そりゃ俺も含めて飛び上がりそうになったね!
「い、いきなりビビらせるなあっ」
『闇の種族の正統なる一員であるコトを証明するため、我に合い言葉を告げよ!』
『闇の種族っ』
全員の声が見事に重なった。
……そんな遙か昔から存在したのか、この組織って。