地下へ続く階段
俺達は早速、マリアの指示に従って、施設内の通路を歩き出す。
ただし、彼女が『そこです!』と合図を出したのは、なんの変哲もない通路の真ん中であり、別に付近に部屋もない。
「なにもないモンっ」
俺より先に、ユメがブーイングを飛ばした。
『皆さんの足元をご覧ください』
「足元?」
俺達が一斉に下を見ると……もしかして、この切れ込みみたいなアレか? 言われるまで、そんなのがあるのに気付かなかったが。
「この切れ込みですかぁ?」
ピンク髪のレジーナが、独特ののんびりした口調で問う。
『そこで間違いありません』
「けれど……この蓋みたいなの、手で持つ場所もないわよ?」
早速しゃがみ込んで点検したサクラが、不満そうに言う。
俺も試しに指先を切れ目に入れようとしたが、全然狭すぎて無理だ。
マヤ文明の石積みと良い勝負だぜ。
『それでは、マスターの掌をあちこち当てて見ててください。それが認証になっている可能性があります』
「いや、当時に俺が生きてたとしても、別人に転生してんだし、指紋とか変わってるだろっ」
文句を言いつつ、掌を当ててみたが、当然反応ない。
「開けてぇええええ」
ユメが横から口を出したけど、それでも――て、おおっ。
「開いたぞっ」
いきなり広範囲に渡って床が横にスライドし、危うく俺は中に転がり落ちるところである。
ちなみに、中には暗い石段があって、どこまでも下へ降りているような感じだ。
辛気くさいな。
「あ、危ないな、くそっ。音声で開く仕組みだったのかよっ」
「まあまあ。開いたんだから、いいじゃない」
「いや、待て!」
とっとと先へ行こうとするサクラの手を、俺はガシッと掴んだ。
「前にも言ったが、こういう場合は俺が先だ。遺憾ながら、俺が一番HPがあるらしいからな。なにかあっても、助かるだろうし」
「そ、そう言えば、前にも似たようなこと言ったわね、レージは」
珍しく言いにくそうに応じると、サクラはそっぽを向いた。
なぜか、照れているらしい。
手を握ったからか? これが胸だったら、さすがにぶっ飛ばされるだろうな……当たり前か。
「ええっ」
俺の阿呆な思案をよそに、ユメが唇を尖らせる。
「ブレイブハートを先頭に立てて、魔獣避けにするのがいいのよ」
「だから、今はサクラも仲間だって」
俺は苦笑気味にユメを窘め、先頭に立つ。
エレインが止めようと手を伸ばしかけたが、俺を見て息を吐いた。
「……では、私が明かりを灯しつつ、後ろにつきます」
俺の後に続こうとしたサクラに先んじて、ささっと背後についた。
「後ろの方のメイドさん達、ユメを頼むな!」
『お任せをっ』
ぞろぞろ俺達の後についている武装メイドさん達が、一斉に声を上げた。
かくして俺は先頭切って階段を下り始めた。
下りると同時に、通路の壁に等間隔で並んだランプみたいなのが、それぞれボッと明るくなる。
どういう仕組みか知らないが、ここにもちゃんと明かりはあるようだ。
ただ、この地下って、上の地下施設とは、全く違う時期に完成したもののような気がする。なぜわかるかというと、主に金属で出来た上の施設と違い、ここの壁は煉瓦を積んであるのがモロわかりなんで。
一定間隔ごとに踊り場みたいな場所があり、そこで折り返して階段が下りていくが……どうやらここも、相当な深さらしい。
しばらくみんな黙り込んで下りることに専念したが、五分経っても十分経っても、地味な石段が延々と続く。
これ、後で上って戻るとしたら、大変だぞ。
「あと、マリアともコンタクトできないだろうなあ、ここだと。ええと、マリア!」
試しに呼んでみたが、やはり反応はない。
あまり連絡が取れないまま先行するのもまずいような気がしてきた。あと十分下りて何もなければ、一度戻るのも――
弱気になったところで、背後からエレインが囁いた。
「レージ様、少し先に出口が見えますっ」
「おお、ようやく階段終わりかっ」
俺は俄然張り切って、足を速めた。
ささっとお宝なり兵器なりを見つけて、とっとと帰らないと。