カラムーチョ、カラムーチョ!(祈りの言葉)
やむなく俺が、いつものエレインを含め、適当に十名くらい選んだ。
今、施設内にいるメイドさん達全員の、三割強くらいか。
それでも十分に多すぎかもだが、未知の区画にいってえらい目に遭うのは、前回で懲りたからな。人数多すぎだと言われようが、万全を期すのは悪くないさ。
そして、俺がさりげなく選んだ中に、王女様みたいに緩く髪がウェーブした女の子がいて、それがロクストン城で危うくテレサに殺されるところだった少女だった。
髪の色が薄いピンクなので、金髪とか銀髪とか黒髪ばかりのメンツの中では、目立つ。
というか、実は気付いた理由はそれではなくて、俺が何気なく振り向くと、その子が離れた場所から、両手合わせて拝んでいたのである。
え、誰を拝んでるんだ!? と驚いたが、どう見てもそっちの方向には俺しかいなかった。
でもって俺が驚いて固まっていると、焦ったように「ああ、すいませんっ。いつもはこっそりやっていますのにっ」などと口走ってくれた。
つまりその……しょっちゅう俺のこと拝んでるわけな。
「み、みんなこっそりやっているのですけど、私は肝心なところでいつも抜けていて」
続けざまにそんな告白をして、奇しくも俺は、メイドさん達が俺をこっそり拝んでいたのに気付いてしまった!
「俺を拝んだところで、御利益なんかないよっ」
そう喚いちまったのに、誰あろうエレインが「いえ、そんなことはありませんっ」と横から割り込むという……あんたもこっそり拝んでたのかとー。
「現に、あたしも生き返りましたもの。全てレージ様の御力ですっ」
助かったピンク髪のその子はレジーナというそうだが、そのレジーナも熱心に言った。
「いや、あの時は別に死んでなかったからじゃ」
なおも言い返しそうになったが、俺は途中で首を振って諦めた。
俺が止めたところで、今まで通りにやりたい人はこっそりするだろうしな。
……しかし、またユメ達の方へ向き直ったら、今度はそのユメが俺に両手を合わせて「カラムーチョ食べたい、カラムーチョ食べたいのぉお」と声に出して熱心に拝んでいて、脱力しそうになった。
「だから、俺を拝んだって、カラムーチョは出てこないって!」
……そういや、ユメはアレが好物だったなあ。
まあ、そのうち一時帰国する方法もみつかるだろうから、その時に買えばいいさ。
「レージ、わたしは真新しい制服と、綺麗な櫛と可愛いコンパクトが欲しいわ!」
サクラが横から、でっかい声で主張しやがった。
「納得しかけてたのに、おまえまで便乗してんなっ」
大真面目な顔で注文出しやがるサクラに、俺はガミガミと言い返した。
あと、注文多すぎだろっ。
「あの……別に要望と言うわけではありませんが」
「おお、アイナまでなんか注文あるのかっ」
アイナまで、前へ出てきたぞっ。
「……注文というか、私はここの皆さんのように」
ぐるりと周囲のメイドさん達を見渡してから続けた。
「子供を作ることはできませんが、その……性交渉なら可能なので、ぜひ私もそのうちお呼びくださいますように」
「わああっ」
反射的に、素っ頓狂な声が出ちまったじゃないか!
「なななっ、なんでいきなりそんな話をっ」
「……え? ですが、私が聞いたところでは、ここにいる皆さんは」
むしろ不思議そうにアイナが小首を傾げる。
「聞いたって、誰になにを?」
ちなみに他のメイドさんは、みんな俺の視線を避けてさっとそっぽを向いた。なぜかみんな顔が赤いしなっ。
「まあ、組織名からして、聖母騎士団だものね」
一番冷静なサクラがぼそっと言う。
「その名前がどうしたと――」
言いかけ、さすがに鈍い俺にも、いろんなピースがびしっと合致した。
なぜかメイドさん達がくれる個人カードとか、聖母が何を意味するかとか、次は三日後ですとかのわけわからん伝言とか……ええっ!?
「パパの子供ならねー、そのうちユメがじゃんじゃん生んで――」
「わあっ」
俺は焦りまくり、危険なことを口走りかけたユメの口を塞いだ。
「思いついたことをそのまま口にしないっ」
あと、真面目に考えていたら、熱が出てぶっ倒れそうなので、俺は唐突にこの話題を打ち切った。
「とにかく、出発!」
自ら率先して、歩き出した。