絶妙の感触
「そりゃ、言葉だけで信じられるわけないだろっ。しかも、あんたみたいに腕の立つ一流剣士だぞ? 実は前世の流れのまま、今もユメの敵だったら、あの子はもう終わりじゃないか!」
「わたしが敵なら、さっきのハンターだって殺さないでしょっ」
「それはわからないさ。もしかしたら、気に入らない場合はガンガン殺す子かもしれないしな」
俺が言い返すと、立ち上がったサクラは腰の刀に手をかけた。
「……会わせないと、殺すと言っても?」
「殺せよっ。どうせさっきは、一度死を覚悟したんだ。ホントにユメの敵なら、ひと思いにやってくれ!」
人生始まって以来と言っていいほど盛大に開き直った俺は、むしろ涙目で睨み返して胸を張ってやった。
どうせバイト先にも夜逃げされた身の上だしな。
明日をも知れぬ身をナメんなっ。
しかし……サクラはしばらく俺を睨んだ後、大きく息を吐き、言った。
「なら、こうしましょう。わたしの命をあなたに一時預ける。もしもわたしが危険だと判断したら、その場で殺せばいいわ」
「おい、俺の弱さを甘く見てるな? 素手でやり合っても勝てる気がしないねっ」
自慢にもならないことを吐き出したが……実際この子は、ハンターとやらを一瞬で三人もあの世に送った元ブレイブハートだ。
ワンレンの髪型にヘアバンドなんかしてるが、そんなお嬢様ルックにはごまかされん。だいたい、さっきの話を信じるなら、邪神を倒したとかいう、最後の生き残り四名のうちの一人だぜ?
俺が百人いたって勝てるかって!
「そうじゃないわ……いいから、あなたも立って」
「いいけど、殺す前には一言、断れよ」
「あなたは敵じゃない……殺さないわ。ただ、わたしが自分自身で呪縛をかけるだけ」
元の醒めた声に戻った彼女に、俺はびびって訊いた。
「呪縛って、俺にか!?」
「違う、自分によ」
投げやりに言うや否や、サクラはいきなりブレザーの上衣に手をかけ、その場で脱いだ。その上衣を椅子に投げ出し、今度は赤いネクタイに手をかける。俺があわあわしているうちにネクタイを外して投げ、最後は白いシャツを脱いで、上はブラジャーだけになってしまった。
いや、ちゃんと止めようと思ったのだが脱ぎっぷりがあまりに素早く、かつ俺が呆然としていたため、間に合わなかった。
つか、想像以上に胸があるっ。おっぱいおっぱいっ!
「じゃなくてっ」
首を振って邪念を追い出し、思わず前屈みになりそうなのを辛うじて堪える。
部屋に干してあるやつはピンクなのに、今度は純白ブラか。非モテの俺には眩しすぎる。
「ぼうっとしてないで、胸に手を当てて」
「ええっ」
嬉しすぎる申し出に、俺は別の意味でたじろいだ。
これはアレじゃないか? 話によく聞く、美人局ってやつじゃないのか?
「早く!」
「はいはいっ」
しかし、叩き付けられるように言われた俺は、慌てて手を伸ばした。
触れと言うなら触るさ、くそっ。殺されるより、おっぱい揉んだ方がマシだ。
しかし……おおっ……これはなんという絶妙な感触。柔らかいのに弾力があって、素晴らしすぎる。
「――あっ」
おまけに、今の吐息のような声が何ともっ。
にやけそうになった途端、脳天に激痛が走り、目の奥で火花が散った。
「ぐはっ」
「違う!」
ふらふらと下がり、俺は頭を押さえる。見れば、サクラが赤い顔で鞘ごと刀を抜いていた。今の衝撃は、俺が鞘でぶっ叩かれたせいだったらしい。
「……胸を揉めなんて言ってない、手を当てるの! それも、心臓の部分にっ」
「それならそうと、言ってくれないと」
胸出して触れと言われたら、そりゃ揉むだろっ。
男なら、普通は絶対揉むはずだ。
頭を押さえながら激しくそう思ったが、サクラの顔を見て、文句付けるのは控えた。こいつ、パワーもあるとわかったし。
「じゃ、じゃあ、あらためて」
今度は遠慮がちに手を伸ばし、膨らみの少し下辺りに手を当てた。でもこれ、結局はかなり膨らみ部分にも手が当たるんだが。
そっとサクラの表情を窺ったが、なぜかこいつは、恐ろしく真剣な表情で妙なセリフを口走っていた。
「生と死が、汝のものとならんことを。我、ここに誓約を定め、縛めをかける」
「――わ、わわっ」
「手を引いちゃだめっ」
きつい口調で言われ、俺は辛うじて手を戻すのを我慢した。
さっきの妙なセリフのせいか、俺の手がサクラの胸にずぶずぶと埋まり始めていたのだ。
すぐにドクドクと動く何かに指先が当たると、サクラの身体が微かに震えた。
「触れたなら、もういいわ。手を引いて」