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引き取った女の子は邪神の転生体でした  作者: 遠野空
第七章 次の覇者は誰だ?
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テレサの布石

 一応の基本方針が決まったので、軍議的なものは終了し、早速、アデリーヌが俺の案を実行すべく、東奔西走してくれることになった。


 申し訳ないと思うが、王宮での政治工作はホント、彼女の独壇場だ。

 事実、軍議の後たった半日で、王宮内の有力大臣や貴族は、揃って「アデリーヌ公爵様支持」を表明した。


 これは別に彼女の美貌――も多少は関係あるかもしれないが、なんといっても一番大きいのは、「これまでロクストン帝国の財務を支えてきたのは、アデリーヌのリュトランド家である」というのが、最大の理由だろう。


 元皇帝が湯水のように国庫の金を使いまくったせいで、今や大貴族たるリュトランド家が提供する資金がなければ、国政が立ちゆかない。

 ロクストン帝国の財政がそこまで逼迫していたとは驚きだが、歴代の皇帝がそれだけ暗愚だったという証拠でもある。

 ただ、ゴマすりしか考えてない皇帝側近は論外として、皇帝の放蕩ぶりをアデリーヌがこれまで一切咎めなかったのは、こういう時のためかもしれないな。


 俺の元故郷でもよく言うが、「世の中、銭!」なのである。


 もちろん、綺麗事も大事だし、金さえあれば全て上手くいくなんて極論を言いたいんでもない。

 しかし、普通は金を持っている者が強いし、発言力だって得ることになる。まさに、あのギルド親父が言ってた通り。


 それにリュトランド家は、何代にもわたり、長い時間をかけてロクストン帝室の信頼を勝ち取ってきている。

 リュトランド家代々の祖先、つまり「当主兼、世襲公爵達」の遠謀が、今ようやく実を結ぶ時が来たわけだ。


 一日もかからずに王室内の足場固めを終えたアデリーヌは、今度はロクストン城の警備改善に乗り出し、以前とは比較にならないほど警備態勢を厳しくした。

 そもそもいかにブレイブハートとはいえ、あっさり侵入されるのは間抜け過ぎるので。

 魔法防御の結界まで敷設し、今度は万全の構えである。


 その報告を聞いた後、俺は俺で、ユメ達と元々の拠点であるダルムートに戻ることにした。

 今後は、帝都の城とダルムートとを、交代で武装メイドさん達が警備することになるだろう。

 転移のための魔法陣もこっそりアデリーヌが用意したので、いわば二つの拠点は繋がったようなものだ。


 ただ、まさに俺達がダルムートの宝探しに出発しようとかと思ったその日、衝撃的な情報が入ってきた。







「皇帝の弟が、テレサ達についた!?」


 城内にできたばかりの、転移のための魔法陣の上で、俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。

 俺はもちろん、サクラや交代のメイドさん達が一斉にざわめいたほどだ。

 みんな、ダルムートへ向かって転移する寸前だったからな。


「出立寸前に、申し訳ありません」


 別にアデリーヌのせいでもないのに、彼女は片膝をついて低頭した。


「皇帝の弟に向けた使者が、つい先程、連絡を寄越しました。問題の貴族領には、既にテレサ達が居座り、城ごとすっかりテレサ派になっているとか」

「……それって、もしかして問題の弟君とやらは、まるっとテレサに洗脳されちまったかもしれないな」


 俺が顔をしかめて言うと、皆がはっとしように注目した。


「いや、別に証拠はないけど、あいつはそのくらいの力は持っているように思う。それにテレサだって拠点は必要だろうし、今回は丁度いいチャンスだったのかも」

「……闇の軍勢を倒す大義名分を得るためと、有力貴族の支持を得るため?」


 サクラがぼそっと尋ねた。


「そう、それ。とはいえ、普通ならその弟だってロクストン城に『こういうことを申し立てるブレイブハート達が訪ねてきたが、それは真実か?』くらいの問い合わせはするはずだろう? 今に至るもそんな連絡がないって言うなら、洗脳されたくらいしか説明がつかない。あるいは、強制的に傀儡かいらいにされたか」

「ご推察は正しいかと存じます」


 アデリーヌが一層、頭を下げる。


「このことあるを予想できなかったことに、おわびを申し上げますわ」

「いや、そんなの俺だって今思いついたんだから、別にアデリーヌのせいじゃないって」


 俺が苦笑して言うと、皆が笑顔を向けてくれて、やたらと照れてしまった。


「……時に、実は崩御した皇帝の身内って、他にもまだまだいそうな気がする」


 最近、妙に勘が働くようになった俺は、自然と呟いていた。


「女遊びが盛んだってことは、それだけ隠し子がいる確率も大きいってことだろ? でも、そんなポンポン後継者を立てるわけにもいかないから、きっと表沙汰にしていないような。どうせ避妊もせずにやりまくってた気がするしなあ、あの人」


 最後はさすがに小声になった。

 アデリーヌはぱっと俺と視線を合わし、「ご慧眼、恐れ入ります。ただちに調査してみますわっ」と答えてくれた。

 もし本当に隠し子がいれば、もちろん弟よりも継承順位は高いだろうしな。


「……最近のレージは、いつになく冴えてるわね」


 サクラが感心したように言ってくれたが、全然褒め言葉になっとらん。



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