兵器か財宝か?
「この際、アデリーヌが帝都の新聞社の出資者なのは、大いに心強いな」
俺は、彼女が座す隣のテーブルに微笑みかけた。
「まだこの時代だと、新聞が最大の情報源かもしれない。ついでに、兵士の募集も新聞を通じてやるといいかも。純朴な人は、新聞に書いてあることをまだまだそのまま本気にするだろうしなあ――て」
……根が日本人の俺は、基本的にマスコミへの信頼度は限りなく低いんだが、もちろんこの場合は嘘を書くわけじゃない。
「当然ながら、俺達は現実的にもあくどいことなんかやる気ないんで、別に新聞に嘘を書く必要もないんだけどね」
「お言葉、承りました」
アデリーヌは、碧眼を輝かせて答えてくれた。
「我が全力を持って、期待にお応え致しましょう!」
「うん……苦労かける」
なんとなく俺は、手を伸ばしてアデリーヌの髪に触れていた。
普段そんなことやらないので、なにより自分自身がびっくりしていたが……アデリーヌの驚きはさらに大きかったらしく、切れ長の瞳を一杯に見開いた後、随分と赤くなっていたな。
ていうか、俺が一番悪照れしていたけど。
「おほん」
わざとらしく咳払いし、俺は話題を変えた。
「時に、さっきの広間で、俺がいつになく戦えていたのを見ていた者も多いと思うけど……そのボーナスステージみたいな続きなのかね、これ? どういうわけか俺の脳裏に、ダルムートの最深部って言葉がしきりに浮かんできたんだが……誰か、心当たりないかな?」
それもつい今し方だ。
俺がアデリーヌと話している最中、いきなり脳裏に浮かんだのだ。
『一刻も早く、ダルムートの最深部へ先へ行かねばっ』てさ。なんで急に思い立ったかね。
念のために、浮かんだその謎セリフを含めて皆に尋ねてみたけど、反応は乏しかった。
みんな、首を傾げているだけだ。
「あのぉ」
「お、ルナさん――じゃなくて、ルナは何か心当たりある?」
仲間になったばかりの元ブレイブハートを見ると、彼女は記憶を探るような顔で、発言した。
「つい最近……レージ様達がダルムートへ向かったという報告を、テレサが聞いた時のことです。その時彼女は、妙に慌てていました。『ダルムートを連中に占領されるとまずいわ。先にアレを見つけられてしまうと困る』と」
ルナの発言に、娯楽室の中はたちまちざわめいた。
アレ? アレってなんだよ?
「じゃあ、あいつがダルムートの地下施設へ侵入してきたのって、本当の理由は、あたし達を攻撃するためじゃなかったのかしら?」
俄然、興味が湧いたようで、サクラまで身を乗り出す。
「そう……かもしれません」
悩める麗人風に、額に手を当てて考え込みながら、ルナが頷く。
「とにかく、あまり慌てた様子を見せたことがないテレサが、あの時だけは本当に焦りの表情を見せていました。その後に自らダルムートへ向かってますし、単なる私の勘違いじゃないと思います」
「ああ、僕も覚えてますね、それ」
レナードまでなにやら思い出したらしい。
「ダルムートにやたらに拘るなぁと、ちょっと疑問でした」
「そこまで気に掛かるとなると、先史時代の兵器か……あるいは財宝でしょうか」
アデリーヌと同じく、隣のテーブルにいたエレインが独白する。
「財宝ですって!?」
サクラの目の色が変わったーーっ。
「い、いや、まだ決まったわけでもないだろ?」
「でも、スーパー化している今のレージの脳裏に浮かんだのが、偶然とは思えないわ。それに、テレサも気にしてたみたいだし」
「スーパー化って……セーラームーンじゃあるまいし」
ボヤく俺を無視して、サクラが無駄に気合いの入った声を出す。
「これは、早急にその最深部とやらへ向かう必要があるわね!」
「……仮に財宝出てきても、ネコババは禁止だぜ?」
すかさず俺が念を押すと、サクラは一気にむくれた。
「そこまでセコくないわよっ」
「まあしかし」
皆に乗せられたのか、俺まで気になってきた。
「財宝にせよ兵器にせよ、どちらも向こうに渡るのは痛いよな。よし、そちらの調査もやろう」
どうせ俺は、王宮内の政治工作なんかできないしな。
せめて探索くらいはやるか。