テレサを狙う
しかし、テレサはもちろん、アデリーヌも大いに本気だったらしい。
「ならば、受けて立つまでっ! 全員、突撃ですっ」
凜とした響きの声と同時に、右手に自分の身長ほどもあるごっつい真っ黒な剣が現れる。それを手に、一瞬だけ俺を振り向く。
「大いなる君は、常に我らと共にありっ」
笑顔で叫んだかと思うと、もう駆け出した。
とんでもないスピードで疾走しつつ、最後に高らかに叫ぶ。
「全ては、我が大いなる君のために!!」
『我が大いなる君のためにっ』
当然、配下の武装メイドさん達も、一斉に声を合わせて駆け出す。
「ま、マジかっ。マジで全面戦争かっ」
「お先に、レージ!」
俺を押しのけるようにして、サクラまで飛び出していく。
「覚悟ぉおおおっ」
一陣の風みたいな疾走速度で、たちまちブレイブハートの集団に斬り込んでいく。
こいつら、血の気多すぎだろっ。
余裕で出遅れた俺は、内心で動揺しまくっていたが、それでもとっさにファミリアの召喚に入った。
「ケルベロス、レッドウルフ、我が召喚に応じて敵を討ち滅ぼせ!」
たちまち俺の眼前に青き魔法陣が現れ、そこから頼もしい魔獣共が飛び出して駆けていく。
俺の潜在意識とシンクロしているから、味方が襲われる心配はないっ。
よしっ、あとはユメを守って戦うかっと思った瞬間、身をくねらせて俺の抱擁から抜け出したユメが叫んだ。
「来てぇ、対の魔剣ダークスター!」
「こらこらっ」
泡を食って止めようとしたが、もう遅かった。
ユメのヤツ、俺の制止を予想してやがったらしい。両手に例の魔剣が現れるや否や、なんとその場で躊躇なくジャンプしたのである。
これがまた、嘘みたいな跳躍距離で、止める隙も暇もなかった。
ドレスのまま空中でくるくる回転して、すたっと敵の真ん前に着地を果たしてしまう。
「パパの敵はユメがほろぼすのおおっ」
「ま、待て待てっ。アイナっ、ユメを頼む!」
自分も走り出すと同時に、アイナに声をかけた。
「お任せを!」
頼もしいアイナが同じくユメの後を追って飛び、すぐそばに着地した。もちろん、その場で右肘のレンコン型のレイガンを露出し、手近な敵に連射しまくりである。
それを見て、ブレイブハート達が明らかにざわめいた。
「き、気をつけろっ。これは先史時代の――ぐあっ」
「くそっ。散れ、散開して倒せっ」
たちまち、ユメの周囲の敵が散ってしまう。よ、よしっ。少なくとも彼女がついててくれれば安心だ。
さらに、俺もユメの応援に駆けつけるべく、慌てて走り出した。
(俺が闇雲に斬り込んだところで、効果は知れてるっ。俺が今、成すべきことはなんだっ)
自問した結果、テレサに挑みかかることに決めたっ。
本当はユメが心配だが、最後に見たところじゃ、アイナを始め、数名のメイドさん達があの子に付き従っている。
そうそう心配はないはず。
ならば、俺は俺で戦うべきだろうっ。
「と思ったけど、畜生っ。数が多すぎる!」
テレサの元へ行くまでが、まず大変であるっ。
乱戦の中、なんとかそちらへ近付こうとしたものの、早速、イケメンの一人が斬りかかってきやがった。
ていうか、こいつらって不細工なメンツってまずいないな、しかしっ。
覚醒条件に「容姿」とかあるんじゃないだろうな!
「滅びるがいいっ、闇の軍勢っ」
「なにをっ」
俺がそいつの剣撃を受け止めた途端、いきなりそばで複数の声がした。
「おのれ、無礼者おっ」
「私が相手よ!」
「不敬よっ。誰を相手にしているつもりなのっ」
どうも密かに俺のそばでガードしていたらしく、エレインを始めとして三名の武装メイドさんが、一斉にそいつに襲い掛かる。
「ぐふっ」
それぞれ疾風迅雷の動きを見せ、喉を裂くわ、脇腹を串刺しにするわで、さしものブレイブハートがあっさり殺られちまった。そいつも素早く気付いて逃げようとしたのに、エレイン達の方が数段速かった!
しかも、余った三人目のメイドさんなんか、死体が倒れる前にそいつを蹴りどかしてしまう荒っぽさ!
「邪魔よっ。レージさまの前で見苦しい!」
さすがは強者揃いの武装メイドさんである。
トドメに三名揃って、剣撃を受けただけの俺を気遣ってくれるという……。
「レージさまっ、ご無事ですかっ」
「遅れてすいませんっ、レージさまっ」
「レージさまっ。我らにお任せを!」
「いやいや、俺のことはいいから、ユメを守るか自分の身を守ってくれ」
気兼ねして俺が指示した途端、いきなりカオル君の声がした。
『レージ、君なら可能だ! そこから跳びたまえっ』
あとから考えても、なぜ俺がとっさにその言葉に従ったのかは、よくわからない。
しかし、その時の俺は本当に一瞬でジャンプしていた。
本当に、己が絶対に跳べないような距離を跳躍してのけたのだ。
そして眼下にいたのは――本気で俺が狙っていた、テレサだった! もうどんぴしゃりだっ。
「来ましたね、諸悪の根源がっ」
既に手近なメイドさんを斬って倒した(ちくしょうっ)ばかりのあいつが、俺を見上げてにんまりとほくそ笑んだ。