ぶちまけるテレサ
中に転がり込んだ途端、ガラスの割れる音が言語道断な音で響くわ、俺の喚き声が高々と響くわ、ユメが笑う声もどんどん響くわで、いきなり大騒ぎである。
しかも、俺は勝手に「五階の廊下」的な場所へ出るのかと思っていたら、俺達が転がり込んだところは、いきなりぱあっと開けた、大広間みたいなところだった。
天井はシャンデリアがいくつも吊り下がっているし、壁は純白に塗られ、とこどころこに金の意匠で模様なんか描かれている。
「ぶ、舞踏会場……か?」
首を傾げて反対側の端っこを見た途端、俺は「うおっ」と声に出した。
なんと、見るだけでむかつくイケメンと、見目麗しい美少女の集団が、険しい目つきでこっちを睨んでいるではないかっ。
その総数は、どう見ても百人に近いぞっ。
しかも、その中にはあの地下施設で遭遇した、テレサもいたっ。
純白ドレスの、ボブカット金髪ねーちゃんである。
てことは、新たに目覚めたブレイブハートの総力が集まってんのか、ここにっ。
「や、ヤバいっ」
ささっとユメを抱き上げて後退したが、反対側の端っこに退避しようとしたが、そこで素っ頓狂な声が上がった。
「お主は、アデリーヌの家に寄食している者ではないかっ」
見れば、護衛の群れの真ん中で、伸び上がるようにして、例の皇帝が俺の方を眺めていた。
「そう、そうですっ。あの時のレージですよっ」
俺はここぞとばかりに主張して手を振った。
「援軍として駆けつけましたっ。貴方が暗殺されるとの情報を得ましたのでっ!」
「そうかっ。すると、アデリーヌは予を心配してくれたのだなっ」
やたら嬉しそうに皇帝が言う。
「しかも、またしても見目麗しい女性が一緒ではないか! その者も味方なのかっ」
皇帝はアイナの張り付くようなバトルスーツに目をやり、早速、鼻の下を伸ばしていた。
王宮が燃えかけてるってのに、女好きの面目躍如である。
「そりゃもうっ。他に、もうすぐ彼女――じゃなくて、アデリーヌさんもくるでしょう。もちろん、屋敷の武装メイドさん達もどっさりと! あんな連中、いちころですぜっ」
敵の撤退を誘うがごとく、俺は吹きまくってやった。
別に嘘じゃないしな。
意外にも、皇帝その人は大いに心強くなったようで、「そうか、おおっそうか!」と泣かんばかりに感激していた。
「嫌われているのではないかと疑っていたが……そうか、アデリーヌは予を心配してくれているかっ」
いや……あんたちょっと、女のこと考えるのは控えようぜ?
人にあまり言えない俺ですら、そう思ったね!
広間の左右に分かれた陣営を見るに、人数は皇帝側がやや多いが……敵はなんと言っても、ブレイブハートだからなっ。
実際、皇帝の周りを囲む、むさ苦しい護衛の群れと比べると、テレサ率いるあの連中は、容姿も気品も、問題にならないぞっ。いや、勝負するのはそこじゃないかもしれんが。
だがどうせ、腕も大違いに決まってる。
そこで俺はカオル君のことを思い出し、皇帝側の陣営をざっと見た……おお、いたいたっ。しかも、同じくブレイブハートらしき美形の男女二人を連れてるぞっ。
もしかして、引き抜いたのか!
さすがっと思ったが、カオル君本人は「あれは全然知らない人」という顔つきで、俺の方なんかろくに見もしやがらない。
薄情者がぁああ。
「レージ……どうやら、カフェの罠から脱出してきたようですね」
一人で憤慨する俺に、ふいに敵側のテレサが言った。
俺はユメを背後から抱き締め、顎を上げて見返した。
「けっ。どうせ性格悪いおまえの罠だと思って、速攻駆けつけてみれば、やっぱりだったな」
ぞんざいな口を利く俺に、たちまちブレイブハート共がいきり立った。
「テレサ様になんという口の利き方かっ」
「貴様こそ、邪神の関係者のくせに、なにを言うっ」
「殺してやるわ!」
今更なので、俺は涼しく聞き流していたが……あいにく、そういう情報が初耳の人達もいたのである。
「邪神の関係者とな!?」
女好き皇帝が戸惑ったような声を上げ、俺は内心で「しまった!」と思った。
そういや、この人は俺達が闇の軍勢の関係者だと、まだ知らなかったんだっけ!? その手の情報は、アデリーヌが手を回して伏せてたもんな。
「いや、それはですね」
慌てて話を変えようとした俺だが、得たりとばかりにテレサが大声で宣告しやがった。
「そうですっ、皇帝ユリアノス! 目を覚ましなさいっ。おまえは神の意志に逆らい、闇の軍勢に味方しようとしているのですよっ」
碧眼を爛々(らんらん)と輝かせ、テレサが偉そうに叫んでしまった。