火だるまのレージ
ちなみに、俺達の眼前には四人いて、その向こうではサクラが違う一人と大立ち回りを演じている。だが、終始サクラが圧倒しているので、俺はそっちは心配していない。
むしろ、この中で一番心配なのは、「ザ・俺自身」である!
さすがというか、目の前で囲む四人は全員、目立つ光を放つ魔法剣なんぞを構えていた。なんという贅沢な……まあ、人のことは言えないが。
しかし、本当にのんびり睨み合ってる場合じゃなかったな。
なにしろ、窓の外ではエレインを振り切ってユメがこっちへ走って来ようとしている!
「レージさま――」
なにか言いかけたアデリーヌを押しやり、俺はそっと囁いた。
「左側の二人を頼む。俺は右側二人を倒す」
「いえ、わたくしがっ」
アデリーヌがとんでもないっと言わんばかりに反論しかけたが、俺はもはや相手にしなかった。カフェの入り口から入ってくるユメに斬りかかるとしたら、一番近いところに立つ、右側の二人に決まってる!
ユメが入ってくる前に、俺がなんとかしないとっ。
腹を決めた瞬間、不思議と恐怖心も消えた。
「行くぞぉおおっ」
目指す二人めがけて躍りかかった途端、向こうも当然のように叫んだ。
「来るがいいっ」
「返り討ちにしてやる!」
しかし、おれはこの瞬間、肝心なことを忘れていたんである。
そう、カフェの屋根の上には、俺自身の指示で、戦闘サイボーグのアイナが伏せていたのだ! どうやら彼女は最適のタイミングを窺っていたらしく、俺がスタート切った途端、いきなりカフェの天井が爆砕した。
「なんだっ」
まさに俺に斬りかかろうとしていた若造が、思わず見上げる。
しかし、音と同時にアイナの存在を思い出した俺は、あえて鋼鉄の意志で同じように見上げる愚を避けた。
あの子なら、俺達に被害を及ぼさずになんとかしてくれるはずだっ。
「よそ見とはいい度胸だな、こらあっ」
大声で喚いて、俺は天井に気を取られたそいつに横殴りの斬撃を叩きつけた。
「くあっ」
よし、手応えありっ!
さすがブレイブハートだけあって、とっさに致命傷とならないように、身を捌いたようだが、それでも盛大な血飛沫が腹から噴き出し、よろけて後退する。
二人目は、俺の頭をかち割る勢いで剣を振り上げていたが、そいつはびくっと身を震わせて、動きを止めた。
「マスター!」
ひらりと舞い降りたアイナの手に輝く光剣があったので、彼女の仕業だろう。
俺は反射的に「アイナ、アデリーヌのバックアップ頼むっ」と言い置き、自分はよろめいた若造にさらに畳みかける。
唐竹割りにする勢いで頭に剣撃をお見舞いしたが、そいつは派手に出血しつつも、きっちり避けやがった。
そのまま、踵を返してダッシュし、カフェの窓に飛び込む。
耳を覆いたくなるようなガラスの破壊音と共に、そいつは飛び出した路上で綺麗に一回転して、見事に態勢を建て直した。
目覚めたばかりの新米とはいえ、さすがは腐ってもブレイブハート!
「けど、逃がすかああっ」
いつかこいつが、ユメを殺すかもしれないしなっ。
いかに俺といえど、遠慮なんかするもんかっ。
俺は同じく破れたまどから路上に飛び出し、そいつの間合いへ躍り込もうと――うおっ。
「ブレイブハートをなめるな! ファイアストームっ」
いきなりだった!
俺に向けて若造が掌を突き出すと同時に、とんでもない業火がばんっと弾け、まともに俺を直撃したっ。まさかの魔法攻撃である。
どうやら、密かに発動待機していたらしい。至近だったんで、避ける暇なんぞなかったっ。
「わ、わわっ」
当たり前だが服に引火するわ、髪に引火するわで、たちまち火だるまである。
「わっちっち! ち、ちくしょうっ。せめておまえだけでもっ」
「――っ! ば、馬鹿なっ」
俺を見て、なぜか随分と動揺した表情で、若造が口を半開きにしていた。
「熱いな、くそっ。なんでおまえが驚いた顔してんだ!」
この隙を見逃さず、俺は今度こそ若造の肩口から、魔力付与の刀で存分に斬り下げた。せめて道連れしにしてやるっ。
さすがに今度こそ若造は、その場に倒れて動かなくなった。
「パパぁ!」
「レージさまっ」
「マスターっ」
なにやらみんなの叫び声が聞こえたが、誰あろう、俺が一番焦っていた。
と、とにかく火を消さないとっ。