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引き取った女の子は邪神の転生体でした  作者: 遠野空
第六章 ブレイブハート達と激突
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これは罠だ!


 屋敷前でかなり揉めたが、結局俺は渋々、みんなの同行を許可するしかなくなった。


 なにしろ一番残したかったユメが「ユメもいくぅううううっ」と切ない顔で訴えるのである。おまけに、俺の身体に抱きついて、全然離れないし。

 ああ、俺はユメに弱いなと思う瞬間である。


 とはいえ、それだけが理由でもなくて、ユメを思い留まらせようとしている俺を見て、サクラがポツッと言ったのだ。


「でもユメだって、一時は闇の軍勢のトップだったわけよね。なら、今から戦闘経験積ませた方がいいと思うけど」


 いやいやっ。そもそも尾行して、カオル君とアデリーヌの会話を見守るだけで、別に戦う気はないしっ。

 そうは思ったが、俺は最終的にユメを連れて行くことにした。

 サクラの言い分に影響されたのは間違いない。この子だって、いつも誰か保護してくれる奴が周りにいるとは限らないよな。


 その代わりサクラに対し、「ならおまえは残るか?」と一応尋ねたら、この生意気女は「わたしはどのみちついていくわよ、馬鹿っ」と偉そうにかしやがった。


 ……そのうち、不意打ちでパンツ下ろしたろうか、こいつはっ。






「しかしおまえ、珍しく今日はドレスだな?」


 コルセット装備のゴスロリファッション的なドレスを見て、歩きながら俺はじろじろ見てしまう。こいつはしかし……意外と、なに着ても似合うな。


「しょうがないでしょ、セーラー服はズタボロだもの。動きやすくて好きだから、また新しいの仕立ててもらってるけど」


 また仕立ててもらってるのか! とはいえ、実は俺もあの格好は嫌いじゃない。

 動きやすさなんざどうでもいいが、日本で見慣れた制服だから、親しみやすい。それに加えて、たまにパンチラもあるしな……そんなことは口が裂けても言わんが。


 などと考えていたら、サクラが横目で見ているのに気付いたので、俺は咳払いして言ってやった。


「おほん。しかしおまえ、そういう格好も似合うぞ。真面目な話、美形は得だな」

「……お世辞はいいわよ、馬鹿」

 また人を馬鹿扱いしてくれたが、ぷいっと横を向いたサクラの顔は、少し照れてたように見えた。

「レージ様、急いで追いつきましょうっ」


 なぜか不機嫌になったエレインが急き立てたので、俺もそれ以上は言わなかったけど。

 とはいえ、戦闘サイボーグのアイナに先行してもらっていたので、振り切られる恐れだけはない。

 俺達はほどなく、夜のメインストリートを歩くアデリーヌに追いついた。


 どのみち、彼女が向かう先も決まってる。カオル君が指定した、カフェである。

 日本で言う喫茶店と役割は同じらしいが、この国でそんなのができたのはまだ最近なせいか、夜は特に空いていて、密談に最適だそうな。





「あまり接近すると、すぐにアデリーヌ様に気付かれますから、これくらいの距離が限界ですね」


 ストーカーよろしく尾行中に、エレインがひそひそと言う。

 ……彼女の配下であるエレインが、俺の尾行に協力していいのかと思うが、俺が質問する前に、みずから教えてくれた。


「私達の命令系統は、この上なくはっきりしていますわ。レージ様のご命令が最優先ですから」

「うおっ」


 心を読まれたのかと思ってぎょっとした俺に、エレインはとろけるような微笑みと共に言った。


「読んだわけではありません。レージ様の優しい性格はよくわかっていますので」

「そ、それ言うと、いつの間にか観察されていた事実が蘇るから、やめてくれー」


 アデリーヌが問題の店へ入っていくのを遠目に見ながら、俺は無闇に照れた。




 

 ……カフェの中は多数のオイルランプで照らされていて非常に明るく、少し離れた横道の角から見張るだけでも、十分に店内の様子がわかる。

 先行してもらったアイナは、ここからは見えないが、店の赤い屋根の上で伏せているはずだ。

まあ、俺なりに万一に備えているつもりである。


 つってもどうせ店内には、若者の客が数名しかいないけどな。


 そして――カオル君が指定してきた「壁に近い端っこの席」には、驚くような美少年が座っていた。上品そうなスーツに金髪、それに整った少女みたいな顔立ちをしている。

 一応、帯剣はしているが、本当に目の覚めるような美形だった。


「うわぁ……アレがカオル君か」


 同じ男として見ても、あれはちょっと別格だな。

 神々しさまで感じる少年なんて、滅多にお目にかかれない。


「あっ」


 ユメがふいに声をあげた。


「どうした!?」

「前から誰かに似てると思ったら」


 にこっとユメが俺を見上げる。


「髪の長さは別として、アデリーヌはハダリーに似てるのよ~」


 いやおまえそれ、カオル君と関係ないし!


「そ、そうか……」


 思わず気の抜けた声が出たじゃないか。

 ……つか、誰だよそれ? まあユメの嗜好からして、好きなアニメの誰かだろうが。


「でも、ハダリーよりは胸ないのよー」


 なんだとー。にわかにそのキャラが気になってきたぞっ。

 アデリーヌもたいがい大きいのにっ。




「レージ様っ」

「レージ!」


 緩んでいた俺を、エレインとサクラが同時に呼んだ。


「店内をご覧下さいっ」

「――むっ」


 店内にいたカオル君以外の数名の客が、なぜか一斉に立ち上がっていた。

 しかも、全員がいつの間にか剣を握っているっ。


「まずいっ。これは罠だ!」


 俺は即座に店へ向かって走り出した。

 


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