カオル君への要望
なんとかユメを引き離し、慌ててそちらを見れば――
なんと、脱衣場から続々と女の子の群れが入ってくるところだった。
先頭はアデリーヌで、固まった俺と目が合った途端、礼儀正しく低頭してみせた。
「レージさまが、ついに女性と入浴することを決断されたと聞きまして、すぐに皆で飛んで来ましたわ」
……この人が俺を呼ぶ時は、いつも他の子より柔らかく聞こえるんだが、今夜ばかりは若干、得意そうな口調もまじってた気がする。
してやったり、みたいな。
まあ俺の気のせいかもしれないが。
あと、彼女の後ろからもエレインやら他の子までが次々に入ってくるのだが、みんな裸なのだなっ。
しかもエレインなどは、どうやってこの場を逃げるか全力で考え中の俺に向かい、妙に嬉しそうに言うのである。
「本日は、まず私からご奉仕させて頂きます」
「いや、ちょっと!」
俺は慌てて巨大浴槽から出ようしたが、そもそも俺も全裸なので、なかなか思い切れない。
しかも、ちゃっかり俺の腕にしがみついたユメが大声を張り上げた。
「ユメが一番最初に洗ってあげるぅう」
「じゃなくて、人の話を聞けよっ」
俺は思わず喚いてしまった。
……結局、周囲全てが裸の女の子という状況から脱出できず、俺は思う存分、ご奉仕されてしまった。
まあ大半は、背中を流してくれたのみだが、逃げようにも順番待ちの女の子が大勢いて、なかなか全裸で逃げにくいという……。
それに、気付かなかったけど、あの浴場にはサウナまで備わっていて、誘われるままに入った俺は、長湯プラスサウナで、すっかりのぼせ上がってしまった。
部屋に戻った時には、もうへろへろである。
アイナにはひとまず隣の部屋に移ってもらい、俺はユメと二人でベッドに倒れ込んでいる。
遊び疲れたのかユメも早くに眠ってしまったが、俺も今にも眠りそう――
『レージ、起きてるかい?』
「うおっ」
辛うじて声を低め、俺は起き上がった。
周囲を見たが、すやすや眠るユメ以外に人はいない。またしてもカオル君のテレパシー的な通信らしい。
「カオル君か……できれば、もっと早く連絡ほしかったんだがな!」
『テレサがそちらへ侵入したというのは、後から知ったよ。申し訳ないけど、僕も常に君達を見ているわけじゃないからね。悪く思わないでほしい』
「まあ、いつも監視されるのも困るけどな、そりゃ。そもそもおまえは、そのうちふっと姿を消すかもだし。『そうか、そういうことかリリン!』とか、わけのわからんセリフだけ残してな!」
アニメのカヲル君的な嫌みを投げてやると、ちゃんと通じたと見えて苦笑する気配が伝わってきた。
『消える時が来ても、挨拶くらいはするよ……ただ、今日は別れの挨拶がしたいわけじゃないんだ』
「なにか差し迫った問題か?」
『遺憾ながら、当たりだよ。どうもテレサの意向らしいが……ブレイブハート達の力を使って、皇帝を本気で暗殺する計画があるらしい』
「それはすでに試みて、失敗しただろ!?」
『あの時は単なるハンターの暴走だが、今回は違う。計画的だし、実行するのはブレイブハート達だからね。まず失敗しないはずさ』
「人に言えた義理じゃないが、あんな頼りなさそうな人でも、アデリーヌの味方だから、助けた方がいいのかねぇ。元々、闇の種族の味方ってわけじゃないみたいだけど」
『助ける意味はあると思うね』
カオル君は断言した。
『なぜなら、あの皇帝が崩御した途端、ブレイブハート達がロクストン帝室を乗っ取り、そのままクーデターを起こす可能性が高いと思うから』
「……それは、信用できる情報ソースなのか?」
『少なくとも僕はそう予想しているよ。外れればいいと思っているけど』
「なるほど」
頷きつつ、俺は別のことを考えていた。
「ところで、少し話は逸れるが、俺もそろそろおまえの顔を見たくなってきたな。おまえが邪悪な存在だとは思ってないが、こっちにも責任ってものがあるのさ。アデリーヌは俺の意見だと、何も考えずに従おうとするからな。決定的なシーンで裏切られたら、目も当てられない。違うか?」
俺としては、さりげなく会見を申し込んだつもりである。
さて、これでどう出るかと思ったが……今回のカオル君は、なかなか返事をしてくれなかった。