ユメのタイタニックポーズ
これはもう、風のように再び服を着て戻るしかないかと思ったのだが、人一倍風呂好きの俺にとって、ここまで脱いで風呂を諦めるのは、妙に悔しい。
だいたい本人がさっぱり気にしていないのに、俺だけ気にしても仕方あるまい。
……そう思うことにして、俺もタオルで前を隠して、浴槽への入り口ドアを抜けた。
抜けた先は……これがまた想像以上に広く、天井も高いし、長方形の浴槽自体が二十五メートルプールくらいの面積があった!
周囲には等間隔で石像みたいな彫刻があって、各像が肩に乗せた壺(多分)から、どんどん湯が入りつつある。
最終的には、俺の身長くらいの深さになるのかも。
「おいユメ!」
早速泳ぎまくりのユメに、俺は慌てて呼びかける。
「足が立たないかもしれないぞっ。気をつけろよ!」
「へーき、へーき!」
器用にも平泳ぎしつつ、俺に手を振って寄越す。
「ユメは、泳ぎが得意なのよー。最初から平泳ぎできるもんっ」
「大丈夫です」
ユメの横でゆっくり並んで歩くアイナが、笑顔で言ってくれた。
「私、ちゃんと見てますから」
「おぉ……悪いなあ」
ていうか、あんまりこっち見ないでくれ。
君の胸は目に毒だ。というか、身体全部が俺にとっては目に毒だけど。
当分そちらを見ないことにして、俺はそろそろと浴槽内に足を踏み入れた。
しかしここ、前に施設内で見かけた掃除マシンみたいなので、しょっちゅう手入れしているらしく、とても久方ぶりに湯を張ったとは思えないなっ。
入るのが俺達だけなんて、壮大な無駄のような気がしてきたぞ。
どうせマリアを通じて、アデリーヌ達にも大浴場の話は伝わっているだろうけど、後で俺からも伝えておこう。みんなに申し訳ない。
……などと仰向けに湯に浮かんで考えていると、なぜかユメがこちらへ泳いできた。
「どうした?」
立ち上がって訊いてやると、その場で上手く立ち泳ぎしつつ、「パパ、パパぁ~。ユメを持ち上げてぇ~」と可愛い声で頼んでくる。
「……なんで?」
「なんででもなのっ」
「そ、そうか」
何か特別な意味でもあるのかと思って、俺はユメのウエストを両手で慎重に掴み、そっと持ち上げてやった。
「もっと高く高く!」
「い、いいけど」
そのうち、俺の顎まで湯が来そうだな、しかし。
「ほら、これでどう――げっ」
考えてみれば当然のことだが、裸の女の子のウエストを掴んで両手を極限まで持ち上げると、目の前にえらいものが見えてしまうわけである。
しかもユメは、映画タイタニックで女優が船首部分に立って両手を広げたのと、そっくり同じポーズを取って見せた。
俺と向かい合う姿勢で。
そういやこの子、もう九歳バージョンじゃなく、十一歳くらいだったか。身長も含めて、見事に成長していたんだった!
「――ほらあっ」
なぜそこでドヤ顔をっ。
「な、なにが、ほら?」
さすがにこれは十一歳といえども見てはいけない気がして、俺は思いっきり目を逸らしていたのだが、なんとユメのヤツが人の頭を掴み、ぐいっと無理に正面に戻しやがった。
「痛い痛いっ」
「見て見てっ。成長した? ユメ成長したでしょっ!?」
言われてやむなく見上げると、確かに胸の膨らみが想像以上に大きかった。もはや日本人の普通サイズにちょっと足りないくらいじゃないのか、この子の胸。
十一歳といえども、さすがに外人さんコースである。
まあ、視界の隅でニコニコ立っているアイナには、さすがにまだだいぶ負けてるけどな。
「せ、成長した、うんうんっ」
「ちゃんと見てないもんっ。えいっ」
俺の態度が不満なのか、そのまま正面から両手両足を絡めてきた。
もう完全に俺の上半身にしがみついている態勢だ。
「こらこらっ。ヤバい、いろいろヤバいからっ。昔のエイリアンみたいな真似はよせっ」
「きゃははっ。いろんな意味でヤバい!」
嬉しそうな声は置いて、そこでなぜかアイナが「あっ」と妙な声を上げた。
「な、なにっ」
「いえ……皆さんも来たようなので」
「なんですとっ」
皆さんって誰だよ!?