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引き取った女の子は邪神の転生体でした  作者: 遠野空
第二章 ユメの過去
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最近の中学生は(以下略)

 つくづくおかしなことになったと思う。


 後からここへ来たワンレンの長い髪の少女は、どうやらこいつらの仲間というわけでもないらしいのだ。

 彼女は俺が無事なのを見て取ると、あっさりと「とにかく外へ出ましょう」と行って、もう歩き始めた。


 白いヘアバンドも眩しい、優等生タイプに見えるが……どうしてどうして、目つきはとことん鋭いし、実際にやることも危ない。

 こいつについて行っていいものか。


 そう思いつつも、俺は死体の中に一人残されるのが嫌で、やむなくサクラの後を追った。しかし、さすがに一階へ降りた時点で、呼び止めた。





「待てよ。上の死体の山はどうするんだ?」


「放っておけば、どうせすぐに他の連中が回収に来るわ」

 振り返ったサクラが、醒めた声で言う。

「しかし……俺はまだ、あんたのことも何も知らないんだぞ? 突然、見ず知らずの帯刀した女子高生について行けって言われてもだな――」

 口にした途端、女の子はまたつかつか歩いて戻ってきた。

 機嫌を損ねたのかとびびったが……そうではなく、サクラはいきなり右手を差し出した。


「わたし、碧川みどりかわサクラ。如月学園中学の三年生。よろしく」


「あ……俺は間宮玲次。元いた学校でのあだ名はレージだけど、今はフリーターだ」

 わけもわからないまま、俺は釣られてサクラの手を握った。

 ていうか、まだ中学生だったのか! 最近の中学生はすげーな。身長もだが、足が長いし胸はそこそこあるし剣技の腕前は一流だし――

「じゃなくて……なんでいきなり挨拶だよ」

 俺は慌てて手を放した。


 実はちょっとひんやりしてたけど、めちゃくちゃすべすべした手で、惜しかったんだが。

「だって、これでわたし達は知り合えたじゃない」

「いや……そういう話じゃなくて」

 俺は首を振ったが、この子が変人っぽいのは、どうやら地らしい。となれば、そこに突っ込んでもしょうがない。


「とにかく、まずは話を聞かせてくれ、詳しい話を!」

「それならちょうどわたしの拠点が、このそばにあるわ」


 サクラはそう言って、また踵を返して歩き出す。

 そのままずんずん歩いて玄関まで行くので、俺も仕方なくついていった。さすがに、この期に及んで俺を殺すことはしないだろう。





 ……呆れた話だが、この子の拠点とやらは、同じくこの放置された住宅地の中にあった。街路に面した建て売りのうちの一軒で、これも建ったばかりに見える。


 実際、「入って」とサクラに言われて中へ入ったが、家具などは備え付けのものしかなかった。

 おまけに、通されたリビングには、紐みたいなのを両端に渡して、洗濯物が吊ってあると来た。うわぁ……レギンスとかスカートはともかく、ブラとパンティーとか生々しいな、おい。しかも色がピンクだし。


「座って」

「あ、ああ」


 サクラが全く気にしないようなので、俺も勧められるまま、テーブルに着いた。

 ちなみにこのテーブルの上にも、電気ポットとカップが一つあるだけだ。

「さっきのあいつらも、この住宅地の空いた家にそれぞれ待機してたのよ。もちろん、あの老人を訪れるはずの『誰か』を捕まえるために、全員が潜んでいたんだけど」

 ついと肩をすくめ、サクラは続けた。

「そんなわけで、ここはわたしにとっても仮の宿ね。当然、わたししかいないから、気遣いは無用よ」


「そりゃ有り難いが……せめて下着は隠したら?」

「気になるの?」

 上目遣いに訊かれ、俺は困惑した。

 どちらかと言えば嬉しいんだが、そう言うわけにもいかない。まあ、今のはただのポーズである。


「十日前に転生の記憶が戻ってからは、わたしの心の一部は死んでしまった。もう元の碧川サクラじゃなくなっているのが、自分でもわかる。今の私は、かつて異世界で生活していた、ブレイブハートよ」


 もうこの言葉だけで、突っ込みどころが満載なんだが、俺はまず一番気になる部分を尋ねた。

「あいつらもそう呼んでたけど、そのブレイブハートというのはどういう意味?」

「あなたや元のわたしが最も理解しやすい言葉で言うと、勇者ということになるでしょうね。ただし、わたしは四人いるうちの一人だけど」


 おぉおおおお、いきなり話が一気にファンタジーに。

 俺は混乱して、阿呆のように訊き返した……動揺したせいで、なぜか敬語で。

「今、勇者と仰いました?」


「たまたま、元の世界で呼ばれた名称に語感と意味が近いから、こっちではブレイブハートと呼ばれる。でも、ゲームに出てくるような勇者だと思って間違いない。ただし、ゲームと違って、あの世界の邪神は、一人で倒せるようなものじゃなかった。最終的には百人の傑出した戦士が集まり、ようやく倒せたの。わたしは、最後まで生き残った四人のうちの一人よ。残りは全員、邪神によって殺されたわね」


 サクラはじっと俺を見つめる。



「このわたしが、そのブレイブハートの生まれ変わりであるように、その邪神の転生体が、おそらく貴方が保護している赤ん坊だと思うわ」


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