怪我
俺達がようやく追いつきかけた時、通路の先でサクラと問題の侵入者が激しくやり合っていた上に、エレインまで参戦しかけていた。
おまけに、ユメまで前へ出て「三対一でふくろ叩きなのよーーっ」と嬉しそうに叫んでいるという……。
「アイナっ。追いつく前に、あの白いドレスの女、攻撃できるかい?」
危機感を覚えた俺は、見つけたばかりのタイプ013の肩を叩いて頼んだ。
ちなみにアイナというのは、数字で呼ぶのがアレすぎるので、俺がつけた仮名である。本人はいたって気に入ったみたいだが。
「もちろんです!」
頼もしく応じたアイナは、走りながらいきなり右腕を掴んで外した。
これには、さすがにぎょっとした!
見れば、肘の辺りに何かある。おそらく銃口的な物が複数、真円の形に並んでいた。
なんだこれ、機関砲なのか!?
その間にも、サクラが止めるのも聞かずにユメが敵に向かいそうで、俺は焦って叫ぶ。
「そう、ユメは駄目だぞっ」
同時に、俺の横でバトルスーツ姿のアイナが猛然とダッシュに移りつつ、右腕の機関砲を発射した。
なんと、通常弾ではなく「ビシュビシュビシュッ!」という独特の音と共に、白い閃光みたいなのが幾筋も走った!
おいおい、まさかのビーム兵器かよっ。
ビームの奔流を雨あられと敵に浴びせつつ、アイナがあっと言う間にサクラ達を易々と飛び越え、敵に猛然と肉薄していく。
これだけ撃ちまくっているのに、嘘のようなコントロールを発揮し、味方には掠りもしない。
たった今、目覚めたばかりの子とは思えんっ。
それに、サクラ達を跳び越えて敵に躍り込む寸前に、横の壁を蹴って跳躍したし!
まあ、敵も残像が見えるような俊敏な動きで、その攻撃を片端から避けてるんだけど。
しかも、きっとまなじりを吊り上げてこちらを見ると、いきなり叫んだ。
「こしゃくな!」
その瞬間、ふっと敵の姿が消える。
以前、背中から刺された時のことを思い出して、俺はぞっとした。いや、こいつがあの時の敵と同一人物だとは限らないけど。
だが、今回は知らぬ間に味方が刺された、なんてことにはならなかった。
敵とほぼ同時にアイナの姿もふっと消え、次の瞬間、肉と肉がぶつかるような、エグい音がした。
途端に再度、敵の姿が現れ、くるくると後方回転しつつ、華麗に着地する。
おおっ、アイナのスピードはさすがだっ。
見事に敵の動きに追従していたらしい。
ドレスの敵は、そのまま俺の方をひと睨みした後、踵を返して猛然と走り出した。要するに、撤退してくれたわけだ。
「アイナ、追わなくていいっ」
そのまま追撃に移りかけた彼女を、俺は素早く制した。
深追いすると、ろくなことにならない気がする。
「了解です、マスター」
「パパぁ~」
「レージ様っ」
ちょうど、ユメが走ってきたのを抱き上げ、その新たな重さにちょっとよろめいた後、俺は笑顔のアイナに頷く。
「ご苦労様」
ただ、次にサクラを見て、かなりぎょっとした。
「おいっ。おまえそれ、大丈夫か?」
「なにがよ?」
「身体、あちこち斬られてるようだが」
セーラー服に、幾筋もすぱっと切れた跡があって、その下の肌にうっすら血が滲んでいるのが見えるのだな。
ちなみに、胸元にもそんな傷があり、魅惑の膨らみにまで傷があったりする。
本日のブラはピンクだったことまで、否応なくわかってしまった……こんな時になんだが、ちゃんとショーツの色も揃えているようだ。
なにせ、スカートも一部斬られてるんで。
「平気よ……大半は掠らせただけだけど、でも危ないのも食らってたみた……い」
なんか声が弱ったかと思うと、そのままがっくりと膝をつく。
「おいおいっ」
慌てた俺は急いでユメを下ろし、駆け寄ってサクラを支えてやった。
見ると……今更のようにどばっと下腹から血が溢れ、だくだく鮮血が流れ始めていた。
こんな、時間差つけて傷が開くことって――ていうか、だいぶ深い傷じゃないかーー!