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引き取った女の子は邪神の転生体でした  作者: 遠野空
第五章 幻の地下都市
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ブレイブハートを束ねる者


 しばらく走った後、さすがにサクラ達もこれは妙だと気付き、走るのをやめた。


 相変わらず通路は続いているし、今のところ周囲は明るいが、もう少し先へ進むと暗闇が広がっているのが見える。


 つまり、マザーコンピューターのマリアの言う、A3エリアの境界まで来てしまったのだ。

 行く先が暗いというのはつまり、この先にエネルギー来てないということだろう。




「おかしいわね、レージは?」

「ねぇ、パパはぁ!」


 サクラとユメが同時に声を上げる。

 万事に気の利くエレインがいきなり声を張り上げた。

「マリア、レージさまはどこですか?」


『マスターなら、貴方達が最初に角を曲がった、すぐ先の部屋の中にいます』


「えぇえええええっ」

「追い抜いてたわけっ? なら先に言いなさいよっ。無駄な距離を走ったじゃない!?」


 またしてもユメとサクラが同時に声を上げた。

『特に訊かれませんでしたし、私にとってはマスターの都合が最優先なので』

 いけしゃあしゃあと答えるマリアに、サクラは大いにむっとした。

「あんたねぇ――」

 そこでエレインが素早く口を挟んだ。


「マリア、不審者はどうなりました?」

『現在、マスターと一緒にいます』


 それを聞くや否や、エレインがすかさず身を翻して駆け出そうとした。

 もちろん、サクラもユメも同じく引き返す気満々だったが……背中にぞくりと殺気を感じ、サクラは大声を上げた。




「止まって! 誰か来るわっ」


 警告の声は、少なくともエレインには必要なかったらしい。

 彼女はサクラとほぼ同じタイミングで急停止し、さっと振り向いて走ってくるユメを抱き留めたからだ。


「待って、ユメちゃん! 怪しい気配がするわっ。マリアっ」


 すぐにマリアに訊いたが、あいにく返事はかんばしくなかった。


『私の管理するエリア内では、新たにA3エリアで発見した者を除き、他に不審者は見当たりません。ただし、まだサブコンピューターが起動されていないエリアについては、確認する方法がありません』




「じゃあ、訊くだけ無駄よ」


 サクラはあっさり言い切った。


「誰だか知らないけど、こいつはこれから調査するはずだったエリアから来るもの」

「つまり、あの真っ暗な通路からですね」


 エレインも同じことを感じ取っていたようで、いきなり両手を広げて叫んだ。


「来なさい! 対の魔剣、ダークファンタジーっ」


 たちまち、サクラやユメと同じ魔法付与の剣がそれぞれの手に握られる。


「敵なら、ユメも戦うのっ」


 既に自分の剣を出していたユメが、明るく叫んだが、サクラとエレインが二人して止めた。


「ユメ、ここはわたしに任せて!」

「ユメちゃん、この敵はどうやらかなりの腕前のようです」


 声が重なったせいか、思わず顔を見合わせ、サクラとエレインは苦笑した。


「なんでぇ! ユメだって強いもんっ」


 後ろでユメがわーわー言ってたが、既にサクラは身を低くして戦闘態勢に入っている。

 今感じる殺気と威圧感からして、こいつを甘く見るのはまずい気がする。

 やがて、身構えるサクラとエレインの耳に、前方の闇から、コツコツという足音が接近してくるのが聞こえた。


「……真っ暗な中で明かりもナシに移動とは、辛気くさい奴ね」

「今気付きましたが、あなたが通路で見かけたというのは、こちらの方かも知れませんね」


 ぽつりと呟くエレインに、思わずサクラは訊き返した。


「どうしてそう思うの?」

「レージ様が見つけた足跡の歩幅と、今聞こえる足音の間隔が、ほぼ一致する気がします」

「あなた、なかなか器用な特技を――」


 呆れて言いかけ、サクラは慌てて口を噤んだ。

 ようやく、敵が見えたからだ。

 女性……というよりはまだ少女の年代であり、ボブカットにした鮮やかな金髪と碧眼、それに純白のドレスという実に場違いな子だったが――。 


 サクラですら眉をひそめるほどの、冷え切った目つきをしていた。

 神々しいほどの美人ではあるが、人が持つはずの温かみなど、微塵も感じなかった。


「あの男が来る前に、おまえ達を片付けておくのも一興でしょう」


 彼女は、サクラとエレインを見比べ、ニイッと唇を吊り上げて笑った。


「誰よ、あんたっ」


 サクラがつっけんどんに尋ねると、少女は刃のごとき視線を向けた。


「我が名は、テレサ・パラディーヌ。光の神アフランの名の下、新たなブレイブハート達を束ねる者です。裏切り者のサクラっ」


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