ゴジラのごとき女の子達
「マリア、不審者の現在地は?」
『そのまま、まっすぐ進み、次の突き当たりを左へ行ってください。今は、そこで立ち止まっています』
俺達は顔を見合わせた。
「近いじゃない! 突き当たりなんてこの先に見えてるし」
サクラが言うのも道理で、今は通路が明るくなっているから、見通しが利く。
実際、突き当たりは百メートルほど先だ。
「下手したら、こっちの声も聞こえてるかもですね」
「あの角を曲がったら、敵なのね~……わくわくっ、わくわくっ」
冷静なエレインもアレだが、全然怯えないユメにも困ったもんだな、しかし!
警戒しているのは俺だけかよっ。
おまけにユメはいきなり両手をまっすぐに伸ばしたかと思うと、張り切った声で叫んだ。
「来てっ。対の魔剣、ダークスター!」
「おわっ」
いや、久しぶりなんで驚いたっ。
呼びかけに応じて、ちゃんとあの真っ黒な刃の剣がユメの両手に出現したという……相変わらず、刃に星の光が煌めくような、不思議な光芒を放っている。
もう自分の武器を呼び出せるほど、力が戻ったのかっ。
「きゃははっ。見て見てぇパパ、Darkness is coming!」
俺を見て足を止め、嬉しそうにわざわざ双剣をびしっと構えてくれた。
「かっこいいでしょ!?」
「あ、ああ……それは疑いようがない。おまえは天性のスターだ」
右手の魔剣は上段に、左手の魔剣は下段にという、ユメ独特の構えだ。めちゃくちゃ防御力高そうなのはいいが……いつもながら、なんで英語だよ。
「パパを守ってあげるぅ~」
俺の横でニコッと笑われると、文句も言いにくいな。
笑顔可愛いし、ゴシックドレスで双剣持つと、ヤバいほど決まってるし。コスプレ会場とか行くと、あっという間にカメラ小僧に囲まれそうだ。
「悪いけど、ユメの分なんか残らないわよ。あたしがいるもの」
「いえ、敵を倒すのは私の務めです」
「ユメの見せ場なんだから、みんなえんりょするのよーーっ」
サクラとエレインが凜々しい声で宣言し、慌てたユメが足早になるという……この集団、女子率高いのに、殺し合い好きな奴多すぎだろっ。
「ま、待て待てっ。なにも見るなり襲い掛かる必要はないんだよっ。話し合いが先だろ、話し合いがっ。登場するなり、街を破壊して回るゴジラじゃないんだからっ」
「話し合いはレージに任せるわ。わたし、説得とかめんどくさいの苦手だから」
「いや、俺もおまえに話し合いは期待してないっ」
俺はサクラにきっぱり言い切ると、集団の先頭に無理矢理立ち、自ら足早に歩き出した。こいつらに任せると、絶対、いきなり殺し合いになるからなっ。
しかし、俺が足早になると、みんな負けじと足早になり、サクラなんかしまいには駆け足も同然になるという。
くそっ、なにがなんでも、こいつらに任せてはいけないような気がした。
相手を見つけるなり、絶対わっとばかりに襲い掛かりそうだ。
「そこで、いきなり俺の猛ダッシュ炸裂!」
この際、自分からスタート切ってやった。
自慢じゃないが、俺は逃げ足の速さだけは自信あるのだ。遁走させたら、最速だからなっ。
「甘いわね、レージっ。足の速さなら、そうそう負けないわよっ」
「レージ様っ」
「ユメが、ユメが倒すのぉお!」
「わっ」
振り返ると、三人と全然距離が開いてなかった! こいつらみんな、速すぎっ。
しかも、凄みのある笑みを浮かべたサクラが真後ろに迫っていて、ぞっとした。ヤバい、もう曲がり角はすぐ先だ。
「甘いのはおまえだ、サクラっ。俺の奥の手を忘れたか、パーフェクトタイム!」
もう距離も近いし、問答無用でスキルを発動し、独走態勢に入ってやった。
「それはずるいわよっ――」
例によってガギィンッというエグい音がしたかと思うと、スキル発動を察したサクラが喚きかけた声が消え、周囲の全てから色彩が抜け落ちていく。
ハウリングみたいな音のみが小さく満ちる中、俺は余裕の独走態勢で走りきり、見る見る分岐に迫る。発動時間九秒のうち、残りあと六秒!
興奮していたせいか、俺は話し合いの精神をころっと忘れ、素早く抜刀して怒濤の勢いで角を曲がった。
そして、見えた人影に向けて刀を――て、待てっ。
危ういところで刀を引く。
こいつ……いや、この子……武器は持ってるけど、女の子じゃないか!