侵入者探知
「――あっ」
いきなりサクラが声を上げ、俺達は一斉に注目した。
「こ、今度はなんだよっ」
「なにを殺気立ってるのよ?」
サクラは呆れたように俺を見て、カプセルのさらに奥の壁を指差した。
「各所に点在しているサブコンピューターって、これのことじゃないの? だって、出発前にマリアが言った通り、黒い機械の上の方に、白い矢印マークがあるし」
マリアの説明では、「マスター達の概念で説明しますと、おそらく問題のサブコンピューターには、上部に矢印に似たマークがあるはずです」と説明していたが、確かにそんな形をしていた。
その下に、大型のレバーみたいなのがついていたが、これも先に聞いていた通りである。念のためにプリントアウトしてもらった地図を見ると、気が遠くなるほどたくさんある目的地の一つは、確実にここのようだ。
「じゃあ、アレを押し上げたらいいわけだな」
「……レージが迂闊にスイッチ入れた途端、各所に眠る化け物が、一斉に目覚めたりして」
サクラが愉快そうに俺をからかった。
「その展開はバイオハザードで見たわいっ。おまえ、古いぞ!」
いや、アレは逆に電源が切れたから、化け物が目覚めたんだっけか。
まあ、そんなことはどうでもいいがな。
実はだいぶ後になってから、俺はこのことを思い出して肝を冷やすことになるのだが――あいにく今の俺は特に警戒もせず、近寄ってガコンッと黒いレバーを押し上げてやった。
すると――キュィィィィンンというなんとも言えない音がしたかと思うと、いきなり部屋が明るくなった。
例によって光源も特にないのに、周囲が昼間のように明るくなる。
開いたままだった自動ドアも、音もなくぴしゃりと閉まった。超科学すぎて、元来は日本人の俺でさえ、わけわからん。
加えて、即座にマリアの声がした。
『お疲れ様です、マスター。A3エリアのサブコンピューターの再起動と、ジェネレーターの起動を確認。動力が蘇り、再びそのエリアが私の支配下に入りました』
「その番号の振り方からして、まだまだ先は長そうですね!」
エレインが、なぜか楽しそうに言う。
俺も苦笑して、どこかで聞いているマリアに答えた。
「このまま先を急ぐけど、もう簡単にジェネレーターとサブコンピューターとやらが切れないようにしてくれよ」
『システム管理者の命令受諾。再起動後は、こちらからシステムの管理指令を出し、各地区のシステムを統合していきます』
「……まあ、その再起動作業がまだどっとあるんだが」
愚痴った後、俺は肝心なことを思い出した。
「そうだ! さっきサクラが、暗闇の中で誰かの姿を見たらしいっ。元はこの部屋にいたようだが……電源回復したなら、そっちで確認できないか?」
正確には、この施設の動力とやらは、俺が知る「電気」とは別モノらしいが、どうせ俺には理解できない。
『しばらくお待ちを。A3エリアのセキュリティシステムが順調に回復中……システム全回復……そのまま、エリア内の異物探査に移行。……調査中……調査中……不審者の移動を探知!』
ものの数秒で、切り裂くようなマリアの声がした。
「うお、マジでいたっ」
俺が声を上げると、即座にサクラが突っ込んだ。
「だからいるって言ったでしょ! それより、そいつって元々この部屋にいたみたいだけど、記録ではどうなってるの?」
後半はマリアへの質問だったようだが、彼女はちゃんと答えてくれた。
ただし、参考にはならなかったが。
『過去の記録は、かつてのマスター達が故意に抹消済み。私は自らが管理していた狭いエリアの情報しか、持っていません』
「いいさ。俺達で確認すればいい。廊下へ出て追うから、情報を逐次送ってくれ」
『了解しました!』
マリアの返事を聞いた後、俺達はそのまま部屋を出た。