ユメの成長と、地下で蠢く者
「しかし……この地下施設、生きてる部分は俺達が侵入した僅かな区画だけだったとは、どれだけ長らく放置されてたって話だよな」
実際、今俺達が歩いている通路には、明かりもないんである。
やむなく今は、エレインが魔法の明かりを前方にふよふよ浮かべて、周囲を照らしてくれている。
別にダンジョンじゃないんで、隊列は組んでない。
俺を先頭にして、みんなでちんたら歩いている感じだ。
「パパぁ~、プリントアウトしてもらった地図だと、今どのあたり?」
「ええと、今はな――」
言いかけ、俺はユメを見てはっとした。
思わず立ち止まってしまう。
いや、漆黒のドレスを着たユメが、どう見ても以前よりその……胸が膨らんでいるような。
「ていうか、おまえちょっとよく見せてみ!」
俺は慌ててユメの前に立ち、両肩に手を置いた。
勘違いじゃない!
明らかに、背丈も伸びている。もうアレだ、九歳とか十歳のレベルじゃないぞ。
「贔屓目に見ても、小六くらい? それも、外人さんレベルの小六だ」
「うふふふ……やっと気付いてくれたのね~」
ユメは嬉しそうに、その場でくるりと回って見せた。
いやおまえ、下はフレアミニなんだから、下着が見えるからよしなさい。
「今朝から、ガラッと変わってるじゃない? 今頃気付いてどうすんのよ」
サクラのいつもの嫌みも、あんまり腹立たないな。
実際、俺はいろいろ悩んでいたとはいえ、気付くの遅かった。
「胸、おっきくなったでしょう、ねえねえっ」
ユメが俺の手をぱっと握り、むにゅっと自分の胸に押しつけた。
「わあっ。い、いきなりなにすんだっ」
しかも、本当に昨晩一緒に風呂に入った時と、全然違うっ。
「まあまあ」
エレインがなぜか羨ましそうに口元に手をやる。
「そこのブレイブハートなんか、近々ぬかしちゃうもん! エレインだって、きっとそのうち、ねっ」
「なんでわたしを引き合いに出すのよっ」
「とにかく、手を離せって」
俺はようやく自分の手を取り戻し、深呼吸する。
「そういや、前にもいきなり身長伸びたけど、あれの再現みたいだな……今回は、しばらく離れていたうちに、なぜか幼くなってたのも不思議だけど」
「ユメはパパのえいきょうを受けているからよ」
後ろ手に両手を組み、ユメが内緒話をするように俺を見上げる。
「パパの力がダウンしている時は、ユメに回る力も少ないから、これまでの急激な成長分が少し戻っちゃってたの。でも、今は再びパパの力が増しているから、また以前に戻るかも」
一生懸命説明してくれたが、あいにく俺にはよくわからない話だった。
「まあ……おまえが元気でいてくれさえしたら、俺は別に何歳だって気にしないよ」
「ふふふ……今はちょうど、十一歳ていどかな? 今晩お風呂にいっしょに入った時に、成長したユメを見てね」
「いやおまえ、その年なら」
言いかけ、俺は以前、その件でユメが拗ねたことを思い出した。
まあいいか……俺が意識しなきゃいいだけだ……だ、大丈夫だよな、所詮、小学生レベルだし。
「あの、レージさま」
水色髪のエレインが、控えめに割り込んだ。
「その時は、私もご一緒していいでしょうか」
いきなり爆弾発言した後、早口で付け加える。
「十一と十五なら、そう年も変わりませんし、問題ないかと」
「ええっ」
「えーーっ」
俺の驚き声と、ユメの不平声が重なった。
いや、その四歳分の差には、それこそエベレストよりも高くて遠い違いがあるような気がするぞ。
彼女の胸元を見つつ、俺は思った。
「ごめんなさい、ユメちゃん……でも元々私達メイドの本来の役割は――」
「みんな、少し静かにっ」
呆れて見ていたサクラが、ふいに鋭い声を上げた。
「今、通路の向こうに誰かいたわっ」