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引き取った女の子は邪神の転生体でした  作者: 遠野空
第五章 幻の地下都市
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実在した、あの人(続かない別視点)


 光の神の化身かと思うような、神々しい女性戦士が新たにブレイブハートに加わったことで、僕は自分がブレイブハートとして目覚めたことに、大いなる誇りを覚えるに至った。


 今日も、帝都バルバライズ内にある、光の戦士達が集う拠点に顔を出そうとしていたのだが、街路を歩くスーツの背中を見て、足を止めた。

 知人と見て、思わず声をかけてしまう。




「おお、ロベール殿」



 呼びつけてしまってから、はっとして立ち止まる。


「失礼しましたね……先日の会合で、敵がどこにいるかわからない故、街中では本名を出さない決まりになりましたな」


「ええ、そうですね」

 特に気を悪くした様子もなく、彼は挨拶代わりに低頭してくれた。

 相変わらず、女性と見間違うような目立つ美貌の持ち主で、僕でさえ見た瞬間にはちょっと戸惑う。


「でも、あくまで個人の判断に委ねるということですし、そうお気遣いなく」


 微風になびく長い金髪を手で払い、ロベール殿はひどく優しい笑顔と共に言ってくださった。だいたいにおいて、ブレイブハートとして目覚めた者は、猛々しい性格の者がやたらと多く、僕はたまにそこが合わないと思う時もある。


 しかし、この少年は僕以上に控えめで、しかも穏やかに見える。

 にも関わらず、着用しているスーツにも襟元のクラバットにも、一部の隙もない。

 彼は再び歩き出しながら、「ロベール殿も会合ですか?」と尋ねた。


「ええ、まあ。やはりブレイブハートとして目覚めたせいか、どうも家にいると落ち着かないもので」

「ははは……よくわかります。ところで、今日の会合自体は、さほど重要な話し合いがあるわけでもありません。どうでしょう? そちらのカフェで少し話をしませんか?」

「カフェ? ああ、最近王都にできたという、飲み物を専門に出す店ですね。……それはもう、喜んで」


 もちろん僕は、ろくに悩みもせず、即答した。

 なにしろ彼は、ブレイブハートとして目覚めたのが誰よりも早く、しかもその実力とカリスマ性は、先日目覚めたばかりの女性戦士に、勝るとも劣らない。




 なにしろ彼はブレイブハートとして目覚めたのが誰よりも早く、しかも神々しいばかりに美しい少年であり、なにより腕が立つ――それはもう、恐ろしいまでに。


 だから、別に僕でなくても、彼と話したいと思うブレイブハートは、男女ともに大勢いたはずだ。





 開店して間もないカフェとは、お洒落なテーブルを並べ、壁に絵画を幾つかかけた、上品な場所だった。

 やってきたウェイストレスにメニューを頼んだところ、ちゃんと紅茶もあったので、僕は大いにほっとした。


 昼間から酒など飲めぬから。

 僕が紅茶を注文すると、ロベール殿も同じものを頼み、なんとなく嬉しくなってしまう。


 これは気が合いそうだ、と直感で思ったのだ。

 やはり彼は、他のブレイブハートとは、良い意味で違う。


「時に、レナード殿」


 いざ紅茶が来てから、ロベール殿はふと思い出したように尋ねた。


「少し前に、サクラという名のブレイブハートとやり合ったとか?」

「ああ……これは恥ずかしい。既に噂が届いていましたか」


 実際、顔を赤くなるような思いで、僕は無闇に頭をかいた。


「いや、まさかリュトランド家の屋敷に、先輩格のブレイブハートが食客として滞在していたとは、思いもしませんでした。しかも、驚くほど喧嘩っ早い方でしたね」


 サクラ殿の不思議な格好と、そのとんでもない腕を思い出し、僕はつい苦笑してしまう。

 外見はまるで違うが、サクラ殿も腕だけなら、先日加わった「彼女」とそう遜色ないのではないか? しかも、「彼女」よりは、まだしも親しみやすい気がする。

  するとロベール殿は、まるでその心中を読んだように重ねて尋ねた。


「でも、戦ってみて、不快ではなかった?」

「そう、そうなのですよ!」


 我が意を得たりとばかりに、僕は深く頷く。


「この前の会合では、サクラ殿はブレイブハートの裏切り者だとされていましたが、どうも僕は、そう邪悪なものを感じませんでした」


 この発言は、新たに目覚めた者の立場からすると、少し危ういものであることは承知しているが、このロベール殿になら、正直に打ち明けてもいい気がした。


「よくわかります。僕も、彼女に出会ったことがありますから」


 幸い、彼は大きく頷いてくれたので、僕は大いにほっとした。


「やあ! これは、密かな同志を得ましたね、はははっ」


 我ながら単純だとは思ったものの、つい声を上げて笑ってしまう。




「何事も、最初から決めつけるのはよくないと思うのです」


 いつもの不思議な魅力に満ちた笑顔で、彼はそう言った。

 優雅な手つきでカップの紅茶を一口飲んだ後、ニコニコと続ける。


「戦うのなら、本当に自分が倒すべき相手かどうか、きちんと見定める必要がありましょう。……そうじゃありませんか?」

「いや、確かに」


 僕も同意したが、思わず店内を見渡してしまった。

 ブレイブハートの結束は、悪い意味で固い。

 僕は自分の発言に覚悟ができているが、彼まで巻き込むのは申し訳ない。

 そこで、話を変える意味でも、今思い出したように尋ねてみた。


「そういえば、街で名乗る仮名を、まだ伺ってませんね? 僕はジョンと名乗るつもりですが、ロベール殿は?」

「これは申し遅れました」


 姿勢を正し、彼が手を差し出す。

 僕より年下に見えるのに、相変わらず礼儀正しい人である。

 実は彼は、視力が皆無に近いそうだが、空色の深い瞳を見ると、とてもそうは思えない。

 むしろ、こちらの心の底まで見渡しそうな気さえする。


「改めまして、よろしく。仮名はひとまず、カオルとでもしておきましょうか」


 そう言うと、彼は心に染みるような笑顔を広げた。


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