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引き取った女の子は邪神の転生体でした  作者: 遠野空
第一章 新米パパの憂鬱
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一瞬の殺陣

「居所を話したら、あんたらはあの子を殺すんだろ?」


「そりゃ殺すさ。言ったじゃないか、あいつは邪神の転生体だと。なぜそれがわかるのかを長々と話す気はないが、何よりの証拠は、かつての信者共が赤ん坊を攫ってかくまったことだな」

「……随分とあやふや理由に聞こえる」


「別にそれだけで判断してんじゃねーよ」

 赤毛がうんざりしたように口を挟んだ。

「なぁ、レスティー。そろそろいいだろ。こいつに付き合いすぎだ。結論を出せって」

「わかってる!」

 レスティーは言うなり、また長剣を抜いた。

「見ての通り、仲間も焦れてるようだ。さあ、話せ。それですべてチャラだ」




「――断る」


 俺があっさり言うと、なぜかサクラと呼ばれていた女の子が、まっすぐに俺を見た。それまで、興味なさそうだったのに。

 まあ、俺の返事のせいで殺気でも覚えたんだろうが、知ったことじゃない。


「おまえ……思ったより馬鹿だったな」

 レスティーは口だけではなく、本物の阿呆を見るように俺を見下ろし、首を振った。

「散々時間を潰させてこれか。どのみちおまえの脳から情報を引き出せば同じだというのに」

「だからって、俺がぺらぺら話していいって理屈にならないよ、おっさん」

 どうせ死ぬんだから、もはや俺は遠慮もなしに言ってやった。

「何が正義の側だ、ふざけんな。あんたらが正義の側だなんて、俺は信じないね。地獄に落ちるがいいさ」


「吐かせ! おめーが地獄に行けよっ」

 

 レスティーより先に、短期な赤毛が抜剣して、いきなり俺の頭に長剣を叩き付けようとした。

 逃げるどころかぴくりとも動けず、俺は微かな風切り音を耳にしていた。すまん、ユメ! 俺がドジを踏んだせいで――


 目を閉じようとしたが、俺はふと首をかしげた。


 なぜか眼前の赤毛の動きが止まり、びっくりするほど大きく目を見開いていたからだ。しかも、いつの間にか首を赤い線がよぎっている。

 まるで、マジックで書いたみたいにはっきり。


「……かっ」


 奇妙な声を一声洩らしたかと思うと、赤毛の体が傾き、そのまま倒れていく。途中で綺麗に首が胴体から外れ、頭が床に転がった。

「な、なんっ」

 俺が声を上げるより先に、まだ名前も知らない男がびっくりしたようにサクラを見やる。お陰で俺もようやく、あの少女が踏み込んだ姿勢から刀を振り上げているのに気づいた。



「どういうつもりだっ」

 レスティーが喚き、一番近くにいた名無し男が飛び退こうとした。しかし、その刹那、サクラの痩身が霞み、名無し男も赤毛の後を追った。

「くあっ」

 断末魔の悲鳴が、一度だけ聞こえた。

 見てた俺にしてからが、いつ斬ったのか、まるでわからなかった。

 深紅の輝きを放つ刀が、唸りを上げて名無し男の首を切断したらしい。また新たな首が転がった。




「なんの真似だ、サクラっ。いや、ブレイブハート!」


 さすがにレスティーは、続いて襲ってきた斬撃を一度は受けた。しかし、受けられた途端、輝く刀身が跳ね上がって剣先が素早く方向を変えた。

 今度こそレスティーが避ける暇もなく、剣を持った右腕ごと切断された。


「ぬうううっ」


 武器を失った彼は、本能的に間合いを取ろうとしたのか、よろよろと下がろうとした。しかし、サクラの攻撃は止まらない。

 刀を振り切った姿勢から、即座に細身の体がひるがえり、コマみたいに半回転する。

 長い髪が舞い、勢いのついた斬撃が、レスティーの胴に真一文字にぐ。

 真っ赤な血が迸るのが、はっきり見えた。


「ぶ、ブレイブハートの……くせに……」


 何か言いかけたが、レスティーはそのまま倒れて動かなくなった。

 身を低くして横一文字に刀身を振り切った状態から、サクラが静かに直立姿勢に戻る。死体さえなければ、剣道師範の剣舞かと思うほどの、美しい姿勢と動きだった。


 全てが終わって三名が死体になるまでに、おそらく数秒ほどしかかかっていなかったはずだ。

 そして当然ながら、俺は骨の髄までびびっていた。


 レスティーが剣を構えた時より、今の方が怖い。腰が抜けかけていたが、それでも何とか立ち上がり、逃げようとした――けど。

 幸いというべきか、サクラは一度だけ刀身を振って血糊を落とし、後は慣れた手つきで刀を収めてしまった。


「どういう……ことだよ?」


 ぐらぐらする頭で、俺はようやく尋ねた。

 冷静そのものの怜悧な顔がこちらを向いたので、俺はロボットみたいな動きでベッドの老人を指差す。


「あいつらの話じゃ、あんたはあのじーさんを殺したって」

「殺したわ」


 少女――サクラはあっさり頷いた。

「だってあいつ、貴方と違ってこいつらの脅しに屈し、赤ちゃんを裏切ろうとした」

 ……よくわからんが、むしろ止めるためにやったと言いたいのか。


「しかし、レスティーは死体から情報を読めると」


 言いかけた俺に、サクラが首を振る。

「あいつが言うほど、明確に読めるわけじゃない。それに、あの老人の裏切りが、わたしは許せなかった」

 サクラは、恐ろしく冷たい声でそう言った。


「裏切り者は嫌いよ……昔を思い出すから」


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