サンシャインイエロー
眩い、
*
七月某日。夏休みまでもう日読みだ。
周りの友人たちは一年に一度のバケーションを待ちきれないらしく、もう予定をびっしり埋めていると聞いた。でも、私には全く関係ない。
……はずだったんだけどなあ。
「ねえねえ先輩っ、行きましょうよおー!」
「……ええー…………」
夏は今年も例年通り、一人で読書ライフを満喫、とうきうきしていたのだが、なんと一人増えたのだ。
それがこの子、克季くん。私の一つ下で一年生。
まさかこの文芸部に、新入生が来るとは思ってなかったんだよなあ、私は。それでいつの間にか克季くんも部室に入り浸るようになって、ナチュナルに同化していった。
で、今、何をされているのかというと。
「古本市っすよ、きっと楽しいっすよ、響きだけでもうロマンじゃないっすかあー!」
「それは認める」
「ほらあー!」
古本市。確かにかなり魅力的だし、興味はある。
「でもさあ、遠くない?」
「そうでもないっすよー、県央まで電車で約三十分、あとは歩きで二十分っす!」
「それを遠いと言わず何と言う」
「東京よりは近いっす」
しれっ、と恐ろしいことを言いおる。私は田舎生まれで、都会に行ったことなんかないというのに。あ、ただし某ネズミ王国を除く。
「……克季くん、好きなタイプって何だっけ?」
「女の子の? 先輩っすよ?」
「んな、違う違う! 本の!」
「ああ、何でも好きっすよー。乱読家なんで。
だからほら、先輩に合わせるんで、一緒に見て回れるっすよ! つか一緒に回りたいんっす!」
ああもう、だから、そんなキラキラした目で見ないで欲しい。
奪われるより優しく、心が吸い取られていってしまうから。
「……まずさあ、私、絶対迷子になるよ?」
「俺、背は高いっすから、先輩ぐらい簡単に見つけられるっすよ!」
「テンション上がって、どっか行っちゃうかも」
「じゃあ俺がずっと手え繋いでるっす!
腕くんでくれても構わないっすけどねっ」
冗談まじり、半ば本気で克季くんは言う。
もう、仕方ないなあ。
克季くんが?
いいや、私が。
「分かった」
「えっ!」
「一緒に行ってあげる」
にこっ、と口角を上げて返事をすると、克季くんの瞳が更に輝きを増した。
「ぃやったあああああ! ついに! ついに先輩と初デートをとりつけたっすうううう!!」
「そういう意味で付き合うわけじゃないからね、古本市に一緒に行くだけ!」
「分かってるっすよー、頑張って惚れさせてみせるっすからね!」
そして数週間後、太陽の輝く八月に、私はわざわざ落とされに出かけていったのだった。
(その光は歪みなくて)